角川ホラー文庫全部読む

全部読めるといいですね。おすすめ作品等はリストから

★★★★

“ホラーコメディ”ではなくあくまで“コメディホラー”。幅広い芸風に唸るデビュー作-『お葬式』

『お葬式』 瀬川ことび/1999年/197ページ 授業中に突然鳴り出したポケベルの電子音。あわてて見た液晶画面に表示されたメッセージは『チチキトク』。病院で、豪華なカタログをかかえてやってきた葬儀社を丁重に追い返して母は言った。「うちには先祖伝来の…

妄執が生んだ忌まわしき花嫁。実話怪談というジャンルを一段上のステージに引き上げた傑作-『拝み屋怪談 花嫁の家』

『拝み屋怪談 花嫁の家』 郷内心瞳/2022年/384ページ 「嫁いだ花嫁が3年以内にかならず死ぬ」――。 忌まわしき伝承のある東北の旧家・海上家では、過去十数代にわたり花嫁が皆若くして死に絶えていた。この家に嫁いだ女性から相談を受けた拝み屋・郷内は、…

飲んで騒いで恋をして、その傍らで霊を視て。ある意味理想の大学生活-『ホーンテッド・キャンパス 幽霊たちとチョコレート』

『ホーンテッド・キャンパス 幽霊たちとチョコレート』 櫛木理宇/2013年/310ページ 幽霊が「視えてしまう」草食系大学生の八神森司。怖がりな彼がオカルト研究会に属しているのは、ひとえに片想いの美少女こよみのため。霊にとりつかれやすい彼女を見守る…

贖罪とサディズムと純愛。唯一無二の世界観で再構築された少女ゾンビ譚-『ステーシー 少女ゾンビ再殺談』

『ステーシー 少女ゾンビ再殺談』 大槻ケンヂ/2000年/191ページ 近未来。そこでは15歳から17歳の少女たちが突然原因不明の死をとげ、人間を襲う屍体・ステーシーとなって蘇える“ステーシー化現象”が蔓延していた。増え続ける彼女たちを再び殺すには165以上…

ストレートな怖さでブン殴ってくるパワー型実話怪談。連作も単発も抜かりなしのクオリティ-『拝み屋怪談 怪談始末』

『拝み屋怪談 怪談始末』 郷内心瞳/2018年/288ページ ―「拝んで」始末した怪異を、怪談として「仕立てる」。戸の隙間からこちらを覗く痩せこけた女。怪しげな霊能者に傾倒した家族の末路。著者につきまとう謎の少女。毎年お盆に名前を呼ぶ声…。東北は宮城…

魔女、錬金術、秘密結社、呪術。ホラー&オカルトの基礎教養が満載の必携書-『黒魔術白魔術』

『黒魔術白魔術』 桐生操/1995年/259ページ 大災害や大事件がひんぱんに発生する世紀末のいま、世界は明らかに大変動をきたしているといえよう。その暗黒世界に対応するには、世界史上“裏の学問”として迫害され続けてきたオカルトの世界を、正しく理解する…

キャラの強さに頼らない、容赦ない展開とテンポ良さが光る。主役を食う名コンビも-『異形探偵メイとリズ 燃える影』

『異形探偵メイとリズ 燃える影』 荒川悠衛門/2022年/304ページ 漫画家を目指す高校生の秋人(しゅうと)はある晩突然、不気味な「何か」に襲われる。直後、唯一の理解者の兄が行方不明に。兄を捜すべく訪れた奇妙な探偵事務所で秋人は、奇怪な存在「異形…

新たな姿で読者を惑わす、幻獣たちのコレクション。濃密テクを堪能できる短編集-『夢魔の幻獣辞典』

『夢魔の幻獣辞典』 井上雅彦/2007年/310ページ 夢魔が紐解く辞典がある。ドラゴン、一角獣、ヒトニグサ、ケルピー、グレムリン…神話や伝説、虚構世界に息づく幻獣たちに魅入られ、憑かれた者たちの悪夢で書き綴られた闇色の手帖…。ボルヘスや澁澤龍彦らが…

狂気と異常心理を奇想と共に描く。ポスト『ドグラ・マグラ』な10編-『人間腸詰』

『人間腸詰 夢野久作怪奇幻想傑作選』 夢野久作/2001年/413ページ 明治の末、渡米した大工のハル吉は、あるアメリカ人の屋敷に招かれる。秘密の錠前作りの依頼を断った彼が見せられた光景は、想像を絶する地獄だった…。夢と現実が妖しく交錯する幻想世界。…

夢野久作入門と呼ぶにはハードルが高い気もするが、セレクト自体は納得のボリューミーな1冊-『あやかしの鼓』

『あやかしの鼓 夢野久作怪奇幻想傑作選』 夢野久作/1998年/416ページ 鼓作りの男が想い焦がれた女性へ、嫁ぐ時に贈った自作の鼓。その音色は尋常とは違い、皆を驚かせた。それは恐ろしく陰気な、けれども静かな美しい音であった…。夢と現実とが不思議に交…

元ネタへの深い理解度に感謝感激。あまりに理想的なトリビュート作品集-『犯罪乱歩幻想』

『犯罪乱歩幻想』 三津田信三/2021年/336ページ “退屈病”に冒された青年が、引っ越し先の部屋で感じた異変の数々(「屋根裏の同居者」)。ある日突然届いたのは、猟奇を楽しむ、特別な倶楽部の招待状だった(「赤過ぎる部屋」)。G坂に住むミステリ作家志望の“…

実話怪談の変化球。恐怖とユーモアに満ちた怪談作家の日常を描く私小説-『怪談稼業 侵食』

『怪談稼業 侵食』 松村進吉/2018年/288ページ ―これは、まともな稼業ではない。徳島で建設業に従事しながら怪異体験談を採集し、誌面に発表してきた著者。「怪談稼業」ともいうべき生業を12年間続けるうち、いつしかいくつもの影が心を侵蝕していって…。…

業の深い人勢ぞろい! 俗っぽくも恐ろしく、どこか可笑しい99の現代怪談-『現代百物語』

『現代百物語』 岩井志麻子/2009年/224ページ 屈託のない笑顔で嘘をつく男。出会い系サイトで知り合った奇妙な女。意外な才能を見せた女刑囚。詐欺師を騙す詐欺師。元風俗嬢が恐怖する客。殺人鬼を取り押さえた刑事。観光客を陥れるツアーガイド。全身くま…

傍若無人なボクサーがリング上で女体化、母乳噴出して引退する悲劇。なんだこれは!?-『ボクサー』

『ボクサー』 吉村達也/2010年/323ページ 男らしさが何よりの自慢だった自分の肉体が、徐々に女になっていく!ボクシング世界王者の芹沢哲が衝撃の事実に気づいたのは、タイトル防衛戦の最中だった。その奇病のために哲はボクサーの栄光と、人間としての尊…

生きてても死んでても人は怖い。超自然と現実のガチンコ厭バトル、完結-『忌談 終』

『忌談 終(つい)』 福澤徹三/2015年/208ページ 疎遠だった祖父の葬式に出席した大学生の身体に生じた異変とは(「血縁」)。キャバクラに居た不思議な力を持つ女のその後(「霊感のある女」)。キャンプ場の木に吊るされていた奇妙なロープ(「縊死体のポ…

殺害手段は大量の硬貨! 猟奇殺人者「リッチマン」を追え-『LEAK 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』

『LEAK 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』 内藤了/2016年/408ページ 正月の秋葉原で見つかった不可思議な死体。不自然に重たいその体内には、大量の小銭や紙幣が詰め込まれていた。連続して同様の死体が発見されるが、被害者の共通点は見つからない。藤堂比奈子…

一族に「この世の富」をもたらす怪異の恵みと災い。展開予測不能の残酷民話-『きんきら屋敷の花嫁』

『きんきら屋敷の花嫁』 添田小萩/2014年/199ページ 平凡で天涯孤独な27歳の知花に、縁談が舞い込んだ。資産家の飯盛家の長男に気に入られたのだ。広大な森に囲まれた屋敷、外部との接触を嫌う家族や親類たち。知花は義母らから一族に伝わる決まりごとを学…

怪奇と猟奇が濃厚に匂い立つ特選短編集。外れ無しの入門編-『芋虫 江戸川乱歩ベストセレクション②』

『芋虫 江戸川乱歩ベストセレクション②』 江戸川乱歩/2008年/196ページ 時子の夫は、奇跡的に命が助かった元軍人。両手両足を失い、聞くことも話すこともできず、風呂敷包みから傷痕だらけの顔だけ出したようないでたちだ。外では献身的な妻を演じながら、…

そうそうたるメンバーの純文学系ホラーアンソロジー。オールタイムベスト級の傑作も-『それぞれの夜』

『それぞれの夜 現代ホラー傑作選第1集』 遠藤周作(選)/1993年/283ページ 戦後の文学を築き上げた十人が織りなす、幻想と恐怖の宇宙。珠玉の十篇を収録。 収録作品 高橋克彦「遠い記憶」 三浦哲郎「楕円形の故郷」 黒井千次「音」 河野多恵子「雪」 澁澤…

人の心を縛る呪いは怨霊よりも恐ろしい。「再読率100%」は伊達じゃない-『予言の島』

『予言の島』 澤村伊智/2021年/352ページ 初読はミステリ、二度目はホラー。この島の謎に、あなたもきっと囚われる。 瀬戸内海の霧久井島は、かつて一世を風靡した霊能者・宇津木幽子が最後の予言を残した場所。二十年後《霊魂六つが冥府へ堕つる》という―…

伝説のオカルト廃墟スポット「山の牧場」後日談を含む、建物にまつわる実話怪談-『怪談狩り 禍々しい家』

『怪談狩り 禍々しい家』 中山市朗/2017年/256ページ 怪奇蒐集家・中山市朗が狩り集めた戦慄の建物怪談。人の気配がない角部屋から聞こえる妙に大きな生活音、引っ越し先で見つけた不気味なビデオテープ、誰もいない子ども部屋で突然鳴りだすおもちゃの音…

B級展開の端々からほとばしる凄み。異形への偏愛に満ちたパルプな短編集-『跫音』

『自選恐怖小説集 跫音』 山田風太郎/1995年/348ページ 推理・活劇・官能そして、恐怖……。現代エンターテインメント小説に多大な影響を与えた著者の自選恐怖小説集。運命共同体に身を委ねた人間の心理を描く『三十人の三時間』をはじめ、愛する男性の不可…

過去への想い、過去からの想いに縄縛される恐怖。傑作揃いの稀有なオリジナルアンソロジー-『かなわぬ想い』

『かなわぬ想い―惨劇で祝う五つの記念日』 今邑彩、小池真理子、篠田節子、服部まゆみ、坂東眞砂子/1994年/292ページ 今邑 彩・小池真理子・篠田節子・服部まゆみ・坂東眞砂子あの日を境に、私の運命の歯車は、ずるずると狂い始めてしまった…!! 記念日をテ…

執拗なまでに活き活きと描かれる、アンモラルでリアルな小学生の日常。考え得る中で最悪のラスト!-『夏の滴』

『夏の滴』 桐生祐狩/2003年/389ページ 僕は藤山真介。徳田と河合、そして転校していった友達は、本が好きという共通項で寄り集まった仲だったのだ―。町おこしイベントの失敗がもとで転校を余儀なくされる同級生、横行するいじめ、クラス中が熱狂しだした…

明らかに人が殺されている親戚の家で暮らす、シュールで悪夢な夏休み-『紗央里ちゃんの家』

『紗央里ちゃんの家』 矢部嵩/2008年/176ページ 叔母からの突然の電話で、祖母が風邪をこじらせて死んだと聞かされた。小学5年生の僕と父親を家に招き入れた叔母の腕は真っ赤に染まり、祖母のことも、急にいなくなったという従姉の紗央里ちゃんのことも、…

食用豚、ゾンビになりたい小学生、妹に自死された兄…。圧倒的なまでに深い孤独を描き切る短編集-『トンコ』

『トンコ』 雀野日名子/2008年/253ページ 高速道路で運搬トラックが横転し、一匹の豚、トンコが脱走した。先に運び出された兄弟たちの匂いに導かれてさまようが、なぜか会うことはできない。彼らとの楽しい思い出を胸に、トンコはさまよい続ける…。日本ホ…

怖ければ怪奇現象でなくてもOK、 ひたすら厭な話だけを集めた実話集-『忌談』

『忌談』 福澤徹三/2013年/192ページ 上の階に住む同僚の部屋からもれてくる奇妙な物音を聞いたソープ嬢(「水音」)。とんでもなく怖い映像を見てしまったビデオ店店員(「裏ビデオ」)。会う度に顔の変わるキャバクラ嬢(「変貌」)。必ず“出る”から絶対プレイ…

読み手の嗜虐欲と被虐欲を煽りまくる、他人にまったく勧められない甘美で凶悪な短編集-『姉飼』

『姉飼』 遠藤徹/2006年/172ページ さぞ、いい声で鳴くんだろうねぇ、君の姉は――。蚊吸豚による、村の繁栄を祝う脂祭りの夜。小学生の僕は縁日で、からだを串刺しにされ、伸び放題の髪と爪を振り回しながら凶暴にうめき叫ぶ「姉」を見る。どうにかして、「…

実話怪談が散りばめられたホラーミステリ連作。表紙にたがわぬ怖さだが、主人公コンビに時にはほっこり-『首ざぶとん』

『首ざぶとん』 朱雀門出/2010年/277ページ 華道教室に通うまりかの先生・嵯峨御流正教授である龍彦の趣味は、なんと怪談蒐集。最初は引き気味のまりかだったが、龍彦の優しげな雰囲気に惹かれ、怪談蒐集の手伝いをすることとなる。ある日まりかは、「おざ…

ひたひたと忍び寄る水怪の群れ。姿を見せない怪異がいちばん怖い-『仄暗い水の底から』

『仄暗い水の底から』 鈴木光司/2001年/242ページ 巨大都市の欲望を呑みつくす圧倒的な〈水たまり〉東京湾。ゴミ、汚物、夢、憎悪……あらゆる残骸が堆積する湾岸の〈埋立地〉。この不安定な領域に浮かんでは消えていく不可思議な出来事。実は皆が知っている…