『犯罪乱歩幻想』
三津田信三/2021年/336ページ
“退屈病”に冒された青年が、引っ越し先の部屋で感じた異変の数々(「屋根裏の同居者」)。ある日突然届いたのは、猟奇を楽しむ、特別な倶楽部の招待状だった(「赤過ぎる部屋」)。G坂に住むミステリ作家志望の“私”は、ある殺人現場に遭遇し―(「G坂の殺人事件」)。精神分析研究所を訪ねた男が語った、夢遊病をめぐる学生時代の体験(「夢遊病者の手」)。今は亡き祖父が、倒れる前に覗き込んだ鏡台。その中に見たものとは?(「魔鏡と旅する男」)。さらに「骸骨坊主の話」「影が来る」を収録した、珠玉のミステリ集!
(「BOOK」データベースより)
江戸川乱歩作品、並びに『リング』『ウルトラQ』のトリビュート作品を集めた短編集。元ネタを知らなくても楽しめると同時に、元ネタへの深い理解度が垣間見える作品ばかりである。谷口基による解説も濃い内容で、トリビュート元を知らない人の読解を深めてくれる。
「屋根裏の同居者」は巻頭作ながらもっともトリッキーな作品で、屋根裏を歩きまわる招かれざる客人の話…かと思いきや、乱歩がやりがちな「妙に地に足がついた現実的なオチ」を真っ向から否定する展開に痺れる。「赤過ぎる部屋」はかの「赤い部屋」のような秘密クラブで己の犯罪履歴を語る男の話で、「赤」の鮮烈なイメージが重要な要素になっている。「G坂の殺人事件」は、少々鼻持ちならない作家志望の主人公が、G坂なる一帯で起きた殺人事件について書き起こす本格推理。フェアでありながらアクロバットな展開が心地よい。「夢遊病者の手」は「夢遊病者の死」だけでなく、多彩な乱歩作品を彷彿とさせる集大成のような一編で、大胆かつトンデモなトリックも含めて非常に「らしい」傑作である。「魔鏡と旅する男」は単に「押絵と旅する男」の押絵を鏡に変えただけではなく、「鏡」といういかにも乱歩好みのガジェットの幻想性を、「鏡地獄」とはまた別のアプローチで乱歩らしく描いているのが味わい深い。
貞子トリビュート「骸骨坊主の話」はエッセイ風の怪談で、伝染する呪いというタチの悪い怪異の恐怖を語る。いわゆる「実話怪談」に分類されるだろうか。『ウルトラQ』トリビュート「影が来る」は、作中で何度も言及されている「悪魔ッ子」のようなスリラーもの。怪獣・宇宙人が登場しないのは残念だが、マニアックな人名や小道具が出てくるので嬉しくなってしまう。
トリビュート先の魅力を完璧に再現しつつ、作者ならではのアレンジでより現代的なミステリorホラーに仕上げているというお手本のような良作ばかり。一言で言えば傑作だ。
★★★★☆(4.5)