『悪夢十夜 現代ホラー傑作選第4集』
夏樹静子(編)/1993年/322ページ
闇夜をますます深くする十の悪夢。古今の名作の中から選びぬかれた、逸品揃いの恐怖小説集。
収録作品
赤川次郎「私だけの境界線」
江戸川乱歩「恐ろしき錯誤」
木々高太郎「文学少女」
小池真理子「しゅるしゅる」
松本清張「家紋」
水谷準「お・それ・みお」
皆川博子「丘の上の宴会」
森村誠一「無限暗界」
夢枕獏「1/60の女」
夏木静子「陰膳」
(裏表紙解説文より)
ミステリ作品多めのアンソロジー。赤川次郎「私だけの境界線」は、夫の突然死を受け入れられない妻の話。普段通りにふるまう彼女の周囲の人々もなかなか夫の死に気づかないのだが、出社しない彼に業を煮やした上司や噂好きの近所の老婦人の詮索で、事実を突きつけられた妻は軽々と“境界線”を越える。いや、もっと前からすでに越えていたのだろうか…。
木々高太郎「文学少女」はまったく怖くはない話だが、タイトル通り文学に情熱を燃やし、その情熱がくすぶり続けていた主人公の境遇、その残酷な運命は本を愛する読者には必ずや刺さるものがあると思う。最後の最後で彼女がつかんだ幸せにも心打たれる。ホラーどころかミステリ要素も薄い本作だが、中盤以降に出てくる大心池先生を主役とした推理小説シリーズの一編である。
小池真理子「しゅるしゅる」は、あらゆる歯車が嚙み合わなくなり、心悩ます女社長の話。得意先の社長が急死し仕事は減少、後任の厭味な男には侮辱され、社員は次々辞めていき、恋人には逃げられ、新築の家はあちこちガタが来ており…。そんな彼女に告げられた、無慈悲な運命の暗示。何が怖いって、“しゅるしゅる”を告げる人物の心中がまったく読めないところが怖い。
水谷準「お・それ・みお 私の太陽よ、大空の彼方に」は、最愛の恋人を失った男が彼女へと贈る、狂気的、かつ幻想的な最後の餞の話。突拍子もない手段でありながらも美しくせつない埋葬はビジュアル的にも衝撃的だ。
皆川博子「丘の上の宴会」は本書の中ではもっともストレートなホラーだが、解説で夏木静子が述べているような、何事にも無感動な主人公の心情の揺れ方を描いているシーンが印象深い。
編者・夏木静子の巻末作「陰膳」は、行方不明になった幼い息子のため、食卓に陰膳を供え続ける夫婦の話。この夫婦は共に再婚で、夫の前の妻、妻の前の夫もそれぞれ行方不明になっているという。そして彼らはその時も、姿を消した配偶者のために陰膳を供えていたという…。示唆されたあまりに禍々しい真相に主人公と読者が思い至った時、陰膳という行為自体の不気味さが膨れ上がる。
怖さだけで言えば「しゅるしゅる」「陰膳」のツートップなのだが、恐怖抜きにしても印象深い作品が多く、平均以上に楽しめる内容であった。
★★★☆(3.5)