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陸の孤島と化した町で、闇に紛れ襲い来る謎の怪物。いくらでも面白くなるシチュエーションなのに…-『夜』

『夜』

赤川次郎/1997年/297ページ

突如襲った激しい大地震。住民が「町」と呼んでいる新興住宅地の道路が遮断され、十五軒の家が完全に孤立した。日が暮れ、月も星もない完全な闇が町を支配する。閉鎖された極限状況の中で、人々の精神は少しずつ狂い始めた。その闇の中で、人間ではない何かが人々を狙っている。一人、また一人、犠牲者が…。人間の恐怖、狂乱、そして死を、サスペンス色豊かに描くパニック小説の傑作。

(「BOOK」データベースより)

 

 大地震により陸の孤島と化した町で繰り広げられる人間模様と、謎の猛獣の襲撃を描くパニックホラー。仲の冷え切った夫婦と妻の浮気相手、裕福ながらも生きる目的を見失いつつある老人、久々に帰って来る夫を待ち続ける妻と子、正気を失い宗教がかったことを口走る女、事件に紛れて本性を現す殺人者などなど、この手の物語ではわりかし王道なキャラクターたちが登場。彼らが時にはいがみ合いつつ、生存のため手を取り合い協力するも、圧倒的な殺戮者によって事態は絶望的な状況へ…という、モダンホラーでは鉄板のシチュエーションである。が、このいくらでも面白くなりそうな展開を表面的になぞることのみに終始しており、どうにも物足りないというのが正直な感想。いくらでも人間関係をゴチャゴチャさせられるだろうに、浮気しただのしてないだののチープな痴情のもつれくらいしかまともに描かれていない。腕を振るうだけで人の首をポンポン飛ばす猛獣の正体ははっきりと明かされていないが、これも雰囲気でごまかすのはもったいない。熊なら熊で、その生態をしっかり描写しないと恐怖につながらないのではないか。極上の素材を未調理でお出しされた気分。

★★★(3.0)

 

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