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食べ物の恨みは恐ろしいというアレ。軽めながらもスパイスの利いた“食”にまつわるホラー8品-『意地悪な食卓』

『意地悪な食卓』

新津きよみ/2013年/240ページ

老人福祉施設のデイサービスセンターに勤める純子は偶然、一生忘れようとしても忘れられない女性の担当になった。かつて、純子が小学生の頃、食べきれない給食を無理やり食べさせようとした女の―(『給食』)。「食い物の恨み」はこんなにも恐ろしい!食事にまつわる怖い話を語る女性たちのおしゃべりが次第にエスカレートしていくさまを描いた「怖い食卓」など、「食」と「女」をテーマにした心理ホラーをあつめた短編集。

(「BOOK」データベースより)

 

 食、女、ホラーの三要素を持つ作品を集めた短編集だが、同作者の『フルコースな女たち』と比べると題材の調理の仕方がスマートな印象。

 「嗅覚」―食事に無頓着な毒親に育てられた結果、逆に嗅覚と味覚が異様に敏感になってしまった女性が、その嗅覚のおかげで悲劇を巻き起こす。「珍味」―美食家だった友人が山奥のド田舎に引っ込んでしまい、「自然食はすばらしい!」とのたまうベジタリアンに鞍替えしてしまった。この山奥で食べられる“珍味”とはいったい? えげつないオチを予想していたので逆にちょっと肩透かしなオチ。 「遺品」―とある女性を弔う会で、彼女の遺品である梅酒を飲んだ参加者たち。追悼の言葉を述べるはずが、次々と彼女への過去の意地悪やいたずら、憎しみ、罪悪感、悪口を告白してしまうことに…。シンプルな構造が不穏さ・不気味さを強調する佳作。「弁当箱」―急逝した夫が持ち帰ってきていた弁当箱の中には、小さな音を立てるなにかが入っていた。夫の死を悔やむ妻、弁当箱の中身を確かめることができないまま時は流れ…。「給食」―介護職についている主人公は、反抗的な手を焼かせる女性がかつて自分につらく当たっていた担任教師だったことを知る。「手作り」―家族以外が作った料理を食べると、アレルギーを起こしてしまうやっかいな症状を持つ男性と結婚を控えている主人公。男性の妹は「自分が同居してごはんを作ればおk」などとのたまうが…。「お裾分け」―駆け落ちの末に夫を亡くした女性と、夫の前の妻との息子との確執と和解を描く。ただのイイ話である。「怖い食卓」―飲食店にまつわるイヤな思い出をひたすら語る座談会。語り口の軽妙さが絶妙で、この作者の持ち味がフルに発揮されている感じ。個人的には「遺品」「怖い食卓」の2作が群を抜いて面白かった。

★★★(3.0)

 

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