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ネットロアと化した伝説的怪談を含む、予測不能の恐怖に満ちた15編-『牛の首』

『厳選恐怖小説集 牛の首』

小松左京/2022年/416ページ

「あんな恐ろしい話はきいたことがない」と皆が口々に言いながらも、誰も肝心の内容を教えてくれない怪談「牛の首」。一体何がそんなに恐ろしいのかと躍起になって尋ね回った私は、話の出所である作家を突き止めるが――。話を聞くと必ず不幸が訪れると言われ、都市伝説としても未だ語り継がれる名作「牛の首」のほか、「白い部屋」「安置所の碁打ち」など、恐ろしくも味わい深い作品を厳選して収録した珠玉のホラー短編集。

(Amazon解説文より)

 

 現代、または遠い未来の宇宙を舞台にしたホラー短編集。先行き不明の怪異が予想外のオチに繋がるキレのいい作品、わずか数ページに起承転結を完璧に詰め込んだショートショートと、匠の技を存分に味わうことができる。ぜひ『霧が晴れた時』と併せて読んでほしい1冊。

 印象深い作品をいくつか紹介(と言ってもほとんどが印象深いのだが)。「ツウ・ペア」は、身に覚えのない殺人の痕跡に悩まされる男の話。会社で普通に仕事をしていたはずが、いつの間にか両手は鮮血に塗れ、女の長い髪の毛が絡みついているのだが、彼にはまったく身に覚えが無い…。読み終えてからタイトルの秀逸さに唸らされる一品。「安置所の碁打ち」はいわゆるゾンビ・テーマに数えられるのだろうが、とぼけたユーモラスさがあるとともに空虚さが漂っており、なかなか味わえない雰囲気である。「十一人」は宇宙船という閉鎖空間で起きるパニックを描くショートショート(竹宮恵子の『11人いる!』とは全然関係ない)。「猫の首」は家の門柱に斬り落とされた猫の首が飾られていた…という猟奇事件にはじまり、推測不可能なトンデモない未来地獄絵図が描かれる怪作。「牛の首」は、誰もが名前を聞いただけで震え上がるという最恐の都市伝説「牛の首」についてのショートショートだが、本作自体がネット界隈で有名な都市伝説になってしまったという伝説的な作品。これについてはとにかく読んでもらうしかない。「夢からの脱走」は悪夢と現実との境界線がいつしか曖昧に…というホラーではよくあるテーマなのだが、ストレートかつ救いの無いオチが見事。「沼」は超短編ながら後味の悪さで群を抜いており、忘れがたい印象を残す。「葎生の宿」は打ち捨てられた廃村で一夜を明かすことになった男が、意志を持っているかのような不思議な民家を発見する…という幻想的な一編かと思いきや、後半の絵ヅラがとにかくぶっ飛んでいて呆気にとられてしまう。なんなんだこれは。ラスト「生きている穴」はその名の通り、生きているかのように拡大していく不気味な「穴」が登場する侵略ホラー。「穴」がそのシンプルさゆえにモンスターとして成立していることに感動すら覚える。

★★★★★(5.0)

 

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