角川ホラー文庫全部読む

全部読めるといいですね。おすすめ作品等はリストから

ホラー小説大賞

  日本ホラー小説大賞、横溝正史ミステリ&ホラー大賞の受賞作品たち。

「忘れたい痛み」と「忘れられた痛み」がすれ違うノスタルジックホラー-『記憶屋』

『記憶屋』 織守きょうや/2015年/304ページ 大学生の遼一は、想いを寄せる先輩・杏子の夜道恐怖症を一緒に治そうとしていた。だが杏子は、忘れたい記憶を消してくれるという都市伝説の怪人「記憶屋」を探しに行き、トラウマと共に遼一のことも忘れてしまう…

周囲も自分も‟リセット”して姿を消す連続殺人鬼を追うサスペンス-『デジタルリセット』

『デジタルリセット』 秋津朗/2021年/352ページ 第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈読者賞〉受賞作! 許すのは5回まで。次は即リセット――。理想の環境を求めるその男は、自らの基準にそぐわない人間や動物を殺しては、別の土地で新たな人生を始める「リセ…

ひたすら奇怪で淫猥、非常に人を選ぶホラー小説大賞受賞作-『余は如何にして服部ヒロシとなりしか』

『余は如何にして服部ヒロシとなりしか』 あせごのまん/2005年/196ページ クリクリとよく動く尻に目を射られ、そっと後をつけた女は、同級生服部ヒロシの姉、サトさんだった。ヒロシなら、すぐ帰ってくるよ―。風呂に入っていけと勧められた鍵和田の見たも…

冒頭の“洒落怖”な雰囲気は抜群ながら、ゲーム的展開がリアリティを削ぐ凡作-『ハラサキ』

『ハラサキ』 野城亮/2017年/208ページ 百崎日向には幼少期の記憶がほとんどない。覚えているのは夕陽に照らされる雪景色だけだった。結婚が決まり、腹裂きの都市伝説が残る、故郷の竹之山温泉に向かう電車の中で日向は気を失う。目覚めるとそこは異世界の…

遠い記憶の異世界で、こちら側の現実で、永遠に迷い続ける子ら。郷愁誘う静かな傑作-『夜市』

『夜市』 恒川光太郎/2008年/218ページ 妖怪たちが様々な品物を売る不思議な市場「夜市」。ここでは望むものが何でも手に入る。小学生の時に夜市に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引き換えに「野球の才能」を買った。野球部のヒーローとして成長した裕司だっ…

暴力と社会病理―“誰が読んでも、いつの時代でも怖いもの”を真正面から描いた不朽の名作-『黒い家』

『黒い家』 貴志祐介/1998年/392ページ 若槻慎二は、生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。ある日、顧客の家に呼び出され、期せずして子供の首吊り死体の第一発見者になってしまう。ほどなく死亡保険金が請求されるが、顧客の不審…

『ジョジョ』ばりにハイテンションな混成種のセリフのみが頭に残る珍作-『混成種 -HYBRID-』

『混成種 -HYBRID-』 カシュウ・タツミ/1994年/293ページ それは、天才が生み出した一つの発明から始まった…。学界から異端視されている黒田博士の発明「金属植物」は、画期的であるにもかかわらず、学界やマスコミから全く相手にされなかった。―なんとか…

新人作家&ドS編集者の心霊取材。創作者の胸を打つ意外なほどの熱さに痺れる-『奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い』

『奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い』 木犀あこ/2017年/240ページ 霊の見える新人ホラー作家の熊野惣介は、怪奇小説雑誌『奇奇奇譚』の編集者・善知鳥とともに、新作のネタを探していた。心霊スポットを取材するなかで、姿はさまざまだが、同じ不…

現実を侵食する怪談が、読み手を醒めない悪夢に誘う。珠玉の短編集-『今昔奇怪録』

『今昔奇怪録』 朱雀門出/2009年/221ページ 町会館の清掃中に本棚で見つけた『今昔奇怪録』という2冊の本。地域の怪異を集めた本のようだが、暇を持て余した私は何気なくそれを手に取り読んでしまう。その帰り、妙につるんとした、顔の殆どが黒目になって…

顔をくりぬいてご飯を詰めるどんぶり村の奇習が蘇る!? 強引でパワフルなバカホラー-『夜葬』

『夜葬』 最東対地/2016年/288ページ ある山間の寒村に伝わる風習。この村では、死者からくりぬいた顔を地蔵にはめ込んで弔う。くりぬかれた穴には白米を盛り、親族で食べわけるという。この事から、顔を抜かれた死者は“どんぶりさん”と呼ばれた―。スマホ…

“ホラーコメディ”ではなくあくまで“コメディホラー”。幅広い芸風に唸るデビュー作-『お葬式』

『お葬式』 瀬川ことび/1999年/197ページ 授業中に突然鳴り出したポケベルの電子音。あわてて見た液晶画面に表示されたメッセージは『チチキトク』。病院で、豪華なカタログをかかえてやってきた葬儀社を丁重に追い返して母は言った。「うちには先祖伝来の…

ラブストーリーとえげつないホラーを完璧に両立した好シリーズ-『ホーンテッド・キャンパス』

『ホーンテッド・キャンパス』 櫛木理宇/2012年/288ページ 八神森司は、幽霊なんて見たくもないのに、「視えてしまう」体質の大学生。片思いの美少女こよみのために、いやいやながらオカルト研究会に入ることに。ある日、オカ研に悩める男が現れた。その悩…

キャラの強さに頼らない、容赦ない展開とテンポ良さが光る。主役を食う名コンビも-『異形探偵メイとリズ 燃える影』

『異形探偵メイとリズ 燃える影』 荒川悠衛門/2022年/304ページ 漫画家を目指す高校生の秋人(しゅうと)はある晩突然、不気味な「何か」に襲われる。直後、唯一の理解者の兄が行方不明に。兄を捜すべく訪れた奇妙な探偵事務所で秋人は、奇怪な存在「異形…

戦死者の生への執着が、家族を、現実を喰らい尽くす。エゴと怨情の食物連鎖!-『火喰鳥を、喰う』

『火喰鳥を、喰う』 原浩/2022年/352ページ 信州で暮らす久喜雄司に起きた二つの出来事。ひとつは久喜家代々の墓石が、何者かによって破壊されたこと。もうひとつは、死者の日記が届いたことだった。久喜家に届けられた日記は、太平洋戦争末期に戦死した雄…

旧き恐怖の存在と、無限の恐怖に囚われた男。角川ホラー文庫を代表する神話級名著-『玩具修理者』

『玩具修理者』 小林泰三/1999年/224ページ 玩具修理者は何でも直してくれる。独楽でも、凧でも、ラジコンカーでも…死んだ猫だって。壊れたものを一旦すべてバラバラにして、一瞬の掛け声とともに。ある日、私は弟を過って死なせてしまう。親に知られぬう…

平穏なき魂vs霊媒師、満足死の自由がある町…。静謐さがリアリティを生む傑作2編-『白い部屋で月の歌を』

『白い部屋で月の歌を』 朱川湊人/2003年/304ページ ジュンは霊能力者シシィのもとで除霊のアシスタントをしている。仕事は霊魂を体内に受け入れること。彼にとっては霊たちが自分の内側の白い部屋に入ってくるように見えているのだ。ある日、殺傷沙汰のシ…

血肉と腐臭にまみれた家族の団結。ラストのぐちゃぬる決戦の高揚感が凄い!-『血の配達屋さん』

『血の配達屋さん』 北見崇史/2022年/336ページ 家出した母を連れ戻すため、大学生の私は北国の港町・独鈷路戸にやって来た。赤錆に覆われ、動物の死骸が打ち捨てられた町は荒涼としている。あてもなく歩くうち、丘の上の廃墟で母と老人たちが凄まじい腐臭…

消せない過去を届けに来る郵便屋。ラストの鬼気迫る展開は見ものだが、全体的にはごく平凡な因縁話-『郵便屋』

『郵便屋』 芹澤準/1994年/238ページ 結婚をひかえ、平凡な幸福を満喫していた萩尾和人の前に、ある日突然現れた不吉な影―今日もまたあの郵便屋が、忘れていた忌しい過去を配達にやってくる。住所も宛名もない不気味な封筒を、古ぼけた配達鞄にしのばせて……

ワンアイデアで読ませるパワー型バカ短編。面白さはともかくホラーとは程遠い-『穴らしきものに入る』

『穴らしきものに入る』 国広正人/2011年/248ページ ホースの穴に指を突っ込んだら、全身がするりと中に入ってしまった。それからというもの、ソバを食べる同僚の口の中、ドーナツ、つり革など、穴に入れば入るほど充実感にあふれ、仕事ははかどり、みんな…

執拗なまでに活き活きと描かれる、アンモラルでリアルな小学生の日常。考え得る中で最悪のラスト!-『夏の滴』

『夏の滴』 桐生祐狩/2003年/389ページ 僕は藤山真介。徳田と河合、そして転校していった友達は、本が好きという共通項で寄り集まった仲だったのだ―。町おこしイベントの失敗がもとで転校を余儀なくされる同級生、横行するいじめ、クラス中が熱狂しだした…

明らかに人が殺されている親戚の家で暮らす、シュールで悪夢な夏休み-『紗央里ちゃんの家』

『紗央里ちゃんの家』 矢部嵩/2008年/176ページ 叔母からの突然の電話で、祖母が風邪をこじらせて死んだと聞かされた。小学5年生の僕と父親を家に招き入れた叔母の腕は真っ赤に染まり、祖母のことも、急にいなくなったという従姉の紗央里ちゃんのことも、…

正しく中二病な残酷寓話。あまりにストレート過ぎる怒りがスれた大人の胸を打つ-『D-ブリッジ・テープ』

『D-ブリッジ・テープ』 沙藤一樹/1998年/167ページ 近未来の横浜ベイブリッジは数多のゴミに溢れていた。その中から発見された少年の死体と一本のカセットテープ。そこには恐るべき内容が…斬新な表現手法と尖った感性が新たな地平を拓く野心的快作。第4回…

食用豚、ゾンビになりたい小学生、妹に自死された兄…。圧倒的なまでに深い孤独を描き切る短編集-『トンコ』

『トンコ』 雀野日名子/2008年/253ページ 高速道路で運搬トラックが横転し、一匹の豚、トンコが脱走した。先に運び出された兄弟たちの匂いに導かれてさまようが、なぜか会うことはできない。彼らとの楽しい思い出を胸に、トンコはさまよい続ける…。日本ホ…

京言葉が紡ぎ出す、雅で醜怪な異界譚。後味の悪さが癖になる-『お見世出し』

『お見世出し』 森山東/2004年/200ページ お見世出しとは、京都の花街で修業を積んできた少女が舞妓としてデビューする晴れ舞台のこと。お見世出しの日を夢見て稽古に励む綾乃だったが、舞の稽古の時、師匠に「幸恵」という少女と問違われる。三十年前に死…

読み手の嗜虐欲と被虐欲を煽りまくる、他人にまったく勧められない甘美で凶悪な短編集-『姉飼』

『姉飼』 遠藤徹/2006年/172ページ さぞ、いい声で鳴くんだろうねぇ、君の姉は――。蚊吸豚による、村の繁栄を祝う脂祭りの夜。小学生の僕は縁日で、からだを串刺しにされ、伸び放題の髪と爪を振り回しながら凶暴にうめき叫ぶ「姉」を見る。どうにかして、「…

濃いキャラ続出、グロ描写も盛り盛りの猟奇ミステリ。お手本のようなエンタメ作品-『ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』

『ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子』 内藤了/2014年/270ページ 奇妙で凄惨な自死事件が続いた。被害者たちは、かつて自分が行った殺人と同じ手口で命を絶っていく。誰かが彼らを遠隔操作して、自殺に見せかけて殺しているのか?新人刑事の藤堂比奈子らは事件…

ほのぼのノスタルジーを読んでいたはずが、いきなりバトル展開に。これが癒し系ホラー…?-『古川』

『古川』 吉永達彦/2003年/198ページ 一九六〇年代初頭、大阪の下町を流れる「古川」。古川のほとりの長屋では、小学生の真理とその家族がつつましく暮らしていた。しかし、ある嵐の夜、真理の前に少女の幽霊が現れて―。ノスタルジックなイメージに満ちた…

読み手をも惑わす混沌の迷宮。逃げ場など最初から無かった-『牛家』

『牛家』 岩城裕明/2014年/197ページ ゴミ屋敷にはなんでもあるんだよ。ゴミ屋敷なめんな―特殊清掃員の俺は、ある一軒家の清掃をすることに、期間は2日。しかし、ゴミで溢れる屋内では、いてはならないモノが出現したり、掃除したはずが一晩で元に戻ってい…

現代人の不安と社会病理を取り込み、怪異はどこまでも力を増す。前代未聞の超エンタメ-『ぼぎわんが、来る』

『ぼぎわんが、来る』 澤村伊智/2018年/384ページ “あれ”が来たら、絶対に答えたり、入れたりしてはいかん―。幸せな新婚生活を送る田原秀樹の会社に、とある来訪者があった。それ以降、秀樹の周囲で起こる部下の原因不明の怪我や不気味な電話などの怪異。…

人は選ぶが、得難い読書体験をもたらす奇妙な一冊。異常主人公に感情移入できるか?-『チューイングボーン』

『チューイングボーン』 大山尚利/2005年/324ページ “ロマンスカーの展望車から三度、外の風景を撮ってください―”原戸登は大学の同窓生・嶋田里美から奇妙なビデオ撮影を依頼された。だが、登は一度ならず二度までも、人身事故の瞬間を撮影してしまう。そ…