角川ホラー文庫全部読む

ホラー小説のレビューブログ。全部読めるといいですね

ホラー小説大賞

  日本ホラー小説大賞、横溝正史ミステリ&ホラー大賞の受賞作品たち。(候補作含む)

見ると必ず死ぬ“呪夢”が伝染する…! ホラーの王道を秘伝技で調理した快作-『夢詣』

『夢詣』 雨宮酔/2025年/368ページ 第45回横溝正史ミステリ&ホラー大賞読者賞受賞作! その悪夢、見れば、死ぬ――”順番”が来るまでに、解呪の鍵を探し出せ。 「もうすぐ私が御血をいただける順番です」“死に至る夢”を見ると訴えていた女性と老人が突然死し…

河童が嗤い怪童が吼える夜、人体も良識もどろりと溶ける。残酷無惨な異常傑作!-『粘膜人間』

『粘膜人間』 飴村行/2008年/272ページ 「弟を殺そう」――身長195cm、体重105kgという異形な巨体を持つ小学生の雷太。その暴力に脅える長兄の利一と次兄の祐二は、弟の殺害を計画した。だが圧倒的な体力差に為すすべもない二人は、父親までも蹂躙されるにい…

思い出の死者が現実を侵す。あらすじでは伝わりにくい描写の冴えが光る-『ジュリエット』

『ジュリエット』 伊島りすと/2003年/361ページ 娘と息子を連れ、亡妻との思い出の地である南の島を訪れた小泉健次。彼は、その島にある建設途中のゴルフ場の管理の仕事をすることになっていた。ある日、健次は息子にせがまれて採った貝を貝殻にしようと浜…

あまりにベタな因習村ホラーの裏に、幾重もの罠が仕掛けられる!-『ナキメサマ』

『ナキメサマ』 阿泉来堂/2020年/352ページ 高校時代の初恋の相手・小夜子のルームメイトが、突然部屋を訪ねてきた。音信不通になった小夜子を一緒に捜してほしいと言われ、倉坂尚人は彼女の故郷、北海道・稲守村に向かう。しかし小夜子はとある儀式の巫女…

悪霊ゲットで商売する霊能カップルを“現実のしがらみ”という恐怖が襲う!-『ウラミズ』

『ウラミズ』 佐島佑/2013年/306ページ 怪しい健康食品会社に勤める真城は霊が視えてしまう特殊体質。気味の悪い霊の出現と毎日の仕事にウンザリしていた。そんなある日に出会った早音は、なんと霊を水入りのペットボトルに封じる不思議な力を持っていた。…

主人公と読者を夢幻に翻弄する、要約不可能の超クセ強短篇集-『とくさ』

『とくさ』 福島サトル/2004年/335ページ 新聞記者を辞めた「私」は、御溝と名乗る奇妙な男から秘薬ニスイについて執筆を依頼されるが、取材相手の死など不吉な体験をする。実は、御溝は死者の言葉を呼び返そうとしていたのだ。庭を覆い隠す木賊のように「…

次元を越え、読み手にも届く永遠の呪い。甘く鈍く重い痛みが胸を穿つ-『少女禁区』

『少女禁区』 伴名練/2010年/173ページ 15歳の「私」の主人は、数百年に1度といわれる呪詛の才を持つ、驕慢な美少女。「お前が私の玩具になれ。死ぬまで私を楽しませろ」親殺しの噂もあるその少女は、彼のひとがたに釘を打ち、あらゆる呪詛を用いて、少…

名家の一族にまとわりつく、忌まわしき過去と艶やかな黒髪。お膳立ては完璧なのだが…-『死に髪の棲む家』

『死に髪の棲む家』 織部泰助/2024年/368ページ 幽霊作家の仕事のため出雲秋泰が訪ねた素封家の屋敷には、死者の口に毛髪を詰めるという奇妙な因習があった。折しも屋敷では身元不明の老人が髪の毛で首を吊る怪事件が発生、秋泰は死体の番をせよと裏山の番…

窮地に陥った男の肉体に起こるおぞましき奇跡。分類不可能な異形作-『化身』

『化身』 宮ノ川顕/2011年/275ページ まさかこんなことになるとは思わなかったー。日常に厭き果てた男が南の島へと旅に出た。ジャングルで彼は池に落ち、出られなくなってしまう。耐え難い空腹感と闘いながら生き延びようとあがく彼の姿はやがて、少しずつ…

「忘れたい痛み」と「忘れられた痛み」がすれ違うノスタルジックホラー-『記憶屋』

『記憶屋』 織守きょうや/2015年/304ページ 大学生の遼一は、想いを寄せる先輩・杏子の夜道恐怖症を一緒に治そうとしていた。だが杏子は、忘れたい記憶を消してくれるという都市伝説の怪人「記憶屋」を探しに行き、トラウマと共に遼一のことも忘れてしまう…

周囲も自分も‟リセット”して姿を消す連続殺人鬼を追うサスペンス-『デジタルリセット』

『デジタルリセット』 秋津朗/2021年/352ページ 第41回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈読者賞〉受賞作! 許すのは5回まで。次は即リセット――。理想の環境を求めるその男は、自らの基準にそぐわない人間や動物を殺しては、別の土地で新たな人生を始める「リセ…

ひたすら奇怪で淫猥、非常に人を選ぶホラー小説大賞受賞作-『余は如何にして服部ヒロシとなりしか』

『余は如何にして服部ヒロシとなりしか』 あせごのまん/2005年/196ページ クリクリとよく動く尻に目を射られ、そっと後をつけた女は、同級生服部ヒロシの姉、サトさんだった。ヒロシなら、すぐ帰ってくるよ―。風呂に入っていけと勧められた鍵和田の見たも…

単なるホラーの枠に留まらない、バラエティに富んだ短編が集結-『日本ホラー小説大賞≪短編賞≫集成2』

『日本ホラー小説大賞≪短編賞≫集成2』 吉岡暁、曽根圭介、雀野日名子、田辺青蛙、朱雀門出、国広正人/2023年/368ページ 《大賞》では測れない規格外の怖さ、ここに集結。 日本ホラー小説大賞、角川ホラー文庫の歴史を彩る名作たちがまとめて読める! 町会館…

文句なしの傑作揃い。せっかくなら解説も読みたかったところだが…-『日本ホラー小説大賞≪短編賞≫集成1』

『日本ホラー小説大賞≪短編賞≫集成1』 小林泰三、沙藤一樹、朱川湊人、森山東、あせごのまん/2023年/400ページ ホラー小説の礎を支えた《短編賞》。これを読まなきゃホラーは語れない! 1994年から2011年まで日本ホラー小説大賞に設けられていた《短編賞》…

冒頭の“洒落怖”な雰囲気は抜群ながら、ゲーム的展開がリアリティを削ぐ凡作-『ハラサキ』

『ハラサキ』 野城亮/2017年/208ページ 百崎日向には幼少期の記憶がほとんどない。覚えているのは夕陽に照らされる雪景色だけだった。結婚が決まり、腹裂きの都市伝説が残る、故郷の竹之山温泉に向かう電車の中で日向は気を失う。目覚めるとそこは異世界の…

遠い記憶の異世界で、こちら側の現実で、永遠に迷い続ける子ら。郷愁誘う静かな傑作-『夜市』

『夜市(よいち)』 恒川光太郎/2008年/218ページ 妖怪たちが様々な品物を売る不思議な市場「夜市」。ここでは望むものが何でも手に入る。小学生の時に夜市に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引き換えに「野球の才能」を買った。野球部のヒーローとして成長した…

暴力と社会病理―“誰が読んでも、いつの時代でも怖いもの”を真正面から描いた不朽の名作-『黒い家』

『黒い家』 貴志祐介/1998年/392ページ 若槻慎二は、生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。ある日、顧客の家に呼び出され、期せずして子供の首吊り死体の第一発見者になってしまう。ほどなく死亡保険金が請求されるが、顧客の不審…

『ジョジョ』ばりにハイテンションな混成種のセリフのみが頭に残る珍作-『混成種 -HYBRID-』

『混成種 -HYBRID-』 カシュウ・タツミ/1994年/293ページ それは、天才が生み出した一つの発明から始まった…。学界から異端視されている黒田博士の発明「金属植物」は、画期的であるにもかかわらず、学界やマスコミから全く相手にされなかった。―なんとか…

新人作家&ドS編集者の心霊取材。創作者の胸を打つ意外なほどの熱さに痺れる-『奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い』

『奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い』 木犀あこ/2017年/240ページ 霊の見える新人ホラー作家の熊野惣介は、怪奇小説雑誌『奇奇奇譚』の編集者・善知鳥とともに、新作のネタを探していた。心霊スポットを取材するなかで、姿はさまざまだが、同じ不…

現実を侵食する怪談が、読み手を醒めない悪夢に誘う。珠玉の短編集-『今昔奇怪録』

『今昔奇怪録』 朱雀門出/2009年/221ページ 町会館の清掃中に本棚で見つけた『今昔奇怪録』という2冊の本。地域の怪異を集めた本のようだが、暇を持て余した私は何気なくそれを手に取り読んでしまう。その帰り、妙につるんとした、顔の殆どが黒目になって…

顔をくりぬいてご飯を詰めるどんぶり村の奇習が蘇る!? 強引でパワフルなバカホラー-『夜葬』

『夜葬』 最東対地/2016年/288ページ ある山間の寒村に伝わる風習。この村では、死者からくりぬいた顔を地蔵にはめ込んで弔う。くりぬかれた穴には白米を盛り、親族で食べわけるという。この事から、顔を抜かれた死者は“どんぶりさん”と呼ばれた―。スマホ…

あくまで実在の忍術を駆使する忍び達vs反則能力持ち妖怪軍団の死闘-『忍びの森』

『忍びの森』 武内涼/2011年/486ページ 時は戦国。織田の軍に妻子を殺された若き上忍・影正は、信長への復讐を誓い紀州をめざす。付き従うは右腕の朽麿呂、くノ一の詩音ら、一騎当千の七人。だが山中の荒れ寺に辿りついた彼らを異変が襲う。寺の空間が不自…

“ホラーコメディ”ではなくあくまで“コメディホラー”。幅広い芸風に唸るデビュー作-『お葬式』

『お葬式』 瀬川ことび/1999年/197ページ 授業中に突然鳴り出したポケベルの電子音。あわてて見た液晶画面に表示されたメッセージは『チチキトク』。病院で、豪華なカタログをかかえてやってきた葬儀社を丁重に追い返して母は言った。「うちには先祖伝来の…

ラブストーリーとえげつないホラーを完璧に両立した好シリーズ-『ホーンテッド・キャンパス』

『ホーンテッド・キャンパス』 櫛木理宇/2012年/288ページ 八神森司は、幽霊なんて見たくもないのに、「視えてしまう」体質の大学生。片思いの美少女こよみのために、いやいやながらオカルト研究会に入ることに。ある日、オカ研に悩める男が現れた。その悩…

キャラの強さに頼らない、容赦ない展開とテンポ良さが光る。主役を食う名コンビも-『異形探偵メイとリズ 燃える影』

『異形探偵メイとリズ 燃える影』 荒川悠衛門/2022年/304ページ 漫画家を目指す高校生の秋人(しゅうと)はある晩突然、不気味な「何か」に襲われる。直後、唯一の理解者の兄が行方不明に。兄を捜すべく訪れた奇妙な探偵事務所で秋人は、奇怪な存在「異形…

戦死者の生への執着が、家族を、現実を喰らい尽くす。エゴと怨情の食物連鎖!-『火喰鳥を、喰う』

『火喰鳥を、喰う』 原浩/2022年/352ページ 信州で暮らす久喜雄司に起きた二つの出来事。ひとつは久喜家代々の墓石が、何者かによって破壊されたこと。もうひとつは、死者の日記が届いたことだった。久喜家に届けられた日記は、太平洋戦争末期に戦死した雄…

旧き恐怖の存在と、無限の恐怖に囚われた男。角川ホラー文庫を代表する神話級名著-『玩具修理者』

『玩具修理者』 小林泰三/1999年/224ページ 玩具修理者は何でも直してくれる。独楽でも、凧でも、ラジコンカーでも…死んだ猫だって。壊れたものを一旦すべてバラバラにして、一瞬の掛け声とともに。ある日、私は弟を過って死なせてしまう。親に知られぬう…

平穏なき魂vs霊媒師、満足死の自由がある町…。静謐さがリアリティを生む傑作2編-『白い部屋で月の歌を』

『白い部屋で月の歌を』 朱川湊人/2003年/304ページ ジュンは霊能力者シシィのもとで除霊のアシスタントをしている。仕事は霊魂を体内に受け入れること。彼にとっては霊たちが自分の内側の白い部屋に入ってくるように見えているのだ。ある日、殺傷沙汰のシ…

血肉と腐臭にまみれた家族の団結。ラストのぐちゃぬる決戦の高揚感が凄い!-『血の配達屋さん』

『血の配達屋さん』 北見崇史/2022年/336ページ 家出した母を連れ戻すため、大学生の私は北国の港町・独鈷路戸にやって来た。赤錆に覆われ、動物の死骸が打ち捨てられた町は荒涼としている。あてもなく歩くうち、丘の上の廃墟で母と老人たちが凄まじい腐臭…

消せない過去を届けに来る郵便屋。ラストの鬼気迫る展開は見ものだが、全体的にはごく平凡な因縁話-『郵便屋』

『郵便屋』 芹澤準/1994年/238ページ 結婚をひかえ、平凡な幸福を満喫していた萩尾和人の前に、ある日突然現れた不吉な影―今日もまたあの郵便屋が、忘れていた忌しい過去を配達にやってくる。住所も宛名もない不気味な封筒を、古ぼけた配達鞄にしのばせて……