『蜘蛛男 江戸川乱歩ベストセレクション⑧』
江戸川乱歩/2009年/326ページ
妹が失踪したと、絹枝という女が犯罪学の権威・畔柳博士を訪ねてきた。折しも博士は、とある会社の怪しい従業員募集の新聞広告に犯罪の匂いを感じていた。絹枝の話では、妹・芳枝はそこに応募したとしか考えられない。博士の悪い予感は当たり、芳枝はすでに惨殺されていた―。好みの女性ばかりを狙う、卑劣な殺人鬼・蜘蛛男とは何者か?そして彼の正体を暴き立ち向かう、明智小五郎の作戦とは!?―。
(「BOOK」データベースより)
自らの犯罪を芸術と嘯く稀代の連続殺人鬼・蜘蛛男と、犯罪学者にて義足の探偵・畔柳博士との対決を描く。恐るべき蜘蛛男の手際に畔柳博士と警察陣は幾たびも出し抜かれるが、後半ではおなじみ明智小五郎も登場。事件の真相を見事に暴き、おいしいところを持っていってしまう。
芸術家気取りの殺人者は推理小説の常連だが、蜘蛛男の猟奇性は際立って素晴らしい。被害者を石膏像や人魚に見立てて遺体を人目に付くよう放置したり、ターゲットにした女優の映画フィルムに細工して気色悪いフェイク映像にすり替えたりと、その自己顕示欲はただ物ではない。ラストには乱歩大好きのパノラマが登場、49人の美女を死体に変えて衆目に晒そうと計画を立てる。本作は最初から最後まで、蜘蛛男のこの合理性皆無のイカれっぷりを堪能できる大犯罪絵巻なのだ。
予想外の事態があったとは言え、明智小五郎も依頼者を守り切れていなかったりするので蜘蛛男の実力と悪運も相当なものである。乱歩犯罪者ランキングでもtier2くらいは入るだろう。その最大のトリックについては中盤まで読めば見当はつくだろうが、あまりの大胆不敵さには舌を巻くばかり。
★★★★(4.0)