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地球滅亡! 異形化した新人類が理性と尊厳を脅かす、楳図印の終末SF-『こわい本2 異形』

『こわい本2 異形』

楳図かずお/2021年/352ページ

天才・楳図かずおの珠玉の恐怖シリーズ『こわい本』。充実の巻末企画付き!

「笑い仮面」では太陽の黒点の異常によって焼け野が原になる地上で生き延びるためにアリのような新人類が誕生する。これは「進化」ではないのか。アリ人間が人間を自分たちと同じ体の仲間にしようとするのは、「自然淘汰」ともいえる。
「地球最後の日」では、彗星との衝突を目前にした地球が描かれる。ショックで3分の1の人間は自殺し、生き残った人間は頭がおかしくなるか、飢えて獣化した怪物になっている。恐怖を逃れるために理性を失い、怪物になることもまた「適応」であり「進化」だ。
---本書解題より(文・中野晴行)
「異形」をテーマに「笑い仮面」(前・後)」「地球最後の日」を収録。
全巻カバーデザインは、吉田ユニ。

(Amazon解説文より)

 

 「笑い仮面」の前・後編を収録。昭和15年。太陽の黒点がアレして人間はアリ人間になる!と主張した科学者・敷島博士が軍の拷問を受け、一生外れない「笑い仮面」を付けられてしまう。秘密収容所・獄門島に捕らえられた敷島は、人間をアリにする研究をしていた南博士の手引きを受けて脱走する。
 終戦後、九州の田舎に帰って来た五郎君(胸に“5”のシャツを着ている)と幼なじみのマリはアリのような怪物に襲われるが、村人に笑い仮面と呼ばれている怪人に救助される。その正体は果たして、村に身を潜めて研究を続けていた敷島だった。太陽の黒点異常による気温上昇に対抗するためには、人類はアリになって地面に潜るしかないと考えていた敷島だが、研究の結果アリ人間は人類の希望などではなく、狂暴極まりない怪物であることが判明。アリ人間に咬まれた者もアリ人間になり、個人の意思は失われて女王アリのためだけに動くようになってしまうのだ。五郎は笑い仮面と協力して、アリ人間に対抗するために村人たちを集めようとするが、すでに村の大半はアリ人間と化していた…。

 怪獣・怪人じみたアリ人間も怖いが、一目見たら忘れられないインパクトを持つのはむしろ笑い仮面のほうである。素晴らしいビジュアル。アリ人間を倒しても人類絶滅の危機はまったく回避できてないという〆も後味が悪く、楳図印の終末SFホラーとしても傑作ではないかと思う。
 もう1つの収録作「地球最後の日」も、進化した人類と地球の滅亡を描くSF。狂った人間と獣化した怪物たちによる容赦のない地獄絵図に加え、逃れられない終末に対して提示される「それでいいのか…? …いや、いいのか」という斬新な解決策など、短編ながら印象深い作品。新吾さんは爆殺されるほど酷い人とも思えなかったが。

★★★☆(3.5)

 

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