角川ホラー文庫全部読む

全部読めるといいですね。おすすめ作品等はリストから

単なるホラーの枠に留まらない、バラエティに富んだ短編が集結-『日本ホラー小説大賞≪短編賞≫集成2』

『日本ホラー小説大賞≪短編賞≫集成2』

吉岡暁、曽根圭介、雀野日名子、田辺青蛙、朱雀門出、国広正人/2023年/368ページ

《大賞》では測れない規格外の怖さ、ここに集結。

日本ホラー小説大賞、角川ホラー文庫の歴史を彩る名作たちがまとめて読める! 町会館で見つけた、地域の怪異が記録された古本を手にしたら――。異色の怪談、朱雀門出の「寅淡語怪録」。その発想力を選考委員が絶賛した、「穴」に入らずにはいられない男のシュールすぎる1作、国広正人「穴らしきものに入る」など計6編。当時の選評からの一言も引用収録。決して他では味わえない、奇想天外な短編ホラーの世界へようこそ。

<収録作品>
吉岡暁「サンマイ崩れ」
曽根圭介「鼻」
雀野日名子「トンコ」
田辺青蛙「生き屏風」
朱雀門出「寅淡語怪録」(「今昔奇怪録」の原題)
国広正人「穴らしきものに入る」

※本書は日本ホラー小説大賞の短編賞受賞作の中から6篇を収録したアンソロジーです。

(Amazon解説文より)

 

 吉岡暁「サンマイ崩れ」-台風による山崩れが発生。入院中だった主人公は病院を抜け出し、消防隊員たちとともに土砂崩れで流された墓地のもとへ向かうのだが…。主人公が精神疾患を抱えており、語り手としてあまり信用が出来ないというギミックがオチを読みやすくしてしまっているが、語り口は実に見事。

 曽根圭介「鼻」-「テング」と「ブタ」の2種類の人間たちが存在する世界。主人公の外科医は、ブタに迫害されているテングたちを救うため、ブタへの転換手術を決意するが…。驚愕のトリックで読者を翻弄する、ホラーだからこそ成しえた異形のミステリ。
 雀野日名子「トンコ」-養豚場のトラックから逃げ出した子ブタが、すでに食用にされ幽霊となったきょうだいたちに誘われつつ旅に出る。『ベイブ』暗黒編といった趣でユーモラスな雰囲気すら漂っているが、ブタの視点からブタの幽霊を見るという読書体験はなかなかできるものではない。
 田辺青蛙「生き屏風」-妖鬼の少女・皐月が、酒屋の死んだ奥方が取りついた屏風の話し相手になる。出会った妖怪の話、怪異の話、鬼の家族の話などを語るうち、皐月と奥方は打ち解けていくのだが…。怪談チックな構造だが怖くはなく、ファンタジーの要素が強い。皐月はなんとも可愛らしいし、作中で語られる奇譚も風変わりで興味深いものばかり。皐月が主人公のシリーズ作品が計3冊刊行されている。

 朱雀門出「寅淡語怪録」-主人公が町会館で見つけた古い本には、周辺の地域にまつわるさまざまな怪談が収められていた。主人公と妻は怪談の舞台になった地を訪れてみるが、そこでは実際に怪異が起きており…。怪談が現実を侵食していく様はがなんとも不気味だが、ホラーに魅入られた読者ならば妖しい魅力を感じるに違いない。

 国広正人「穴らしきものに入る-穴であればなんでも身体ごと入っていけるようになってしまった主人公が、身の回りのありとあらゆる穴に入ろうとする話。ホラーというよりホラ話だが、ワンアイデアで突き進む圧倒的なバカバカしさは忘れがたい。

 

 『集成1』と同じく、解説の類が無いのは少々寂しいのだが、面白さは流石の一言。単なるホラーの枠に留まらない、バラエティ豊かな作品が揃っている。現在では紙の本が手に入りにくい作品もあり、角川ホラー文庫30周年を祝うアンソロジーとしては意義あるものだと思う。ちなみに日本ホラー小説大賞の短編賞受賞作としては吉永達彦「古川」伴名練「少女禁区」が未収録である。佳作としては櫻沢順「ブルキナ・ファソの夜」瀬川ことび「お葬式」福島サトル「とくさ」があり、上記いずれも角川ホラー文庫で刊行されている。

★★★★☆(4.5)

◆Amazonで『日本ホラー小説大賞≪短編賞≫集成2』を見る(リンク)◆

www.amazon.co.jp