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全部読めるといいですね。

ワンアイデアで読ませるパワー型バカ短編。面白さはともかくホラーとは程遠い-『穴らしきものに入る』

『穴らしきものに入る』

国広正人/2011年/248ページ

ホースの穴に指を突っ込んだら、全身がするりと中に入ってしまった。それからというもの、ソバを食べる同僚の口の中、ドーナツ、つり革など、穴に入れば入るほど充実感にあふれ、仕事ははかどり、みんなから明るくなったと言われるようになった。だが、ある一つの穴に執着したことから、彼の人生は転機を迎えることになる―。卓抜したユーモアセンスが高く評価された第18回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作に他4編を収録。

(「BOOK」データベースより)

 

 表題作「穴らしきものに入る」は、特に理由は無く「穴」にならなんでも入れるようになってしまった男の話。ホース、吊り革、自分の指で作った輪っか、ちくわ、シュレッダーと様々な穴らしきものに挑戦し続けた男が最後に入ったのは…。奇抜な着想でラストまで押し通す、パワー型のバカ話。個人的にこれをホラーと呼ぶのは相当に抵抗があるのだが、この「何を読まされてるんだ」感はなかなか得難いものがある。
 「金骨」は、父親を火葬したらなぜか骨がすべて純金になっていた…というだけの話。親戚一同での醜い争奪戦に加え、「弟は骨が純銀かもしれない」と叔父の命が狙われるしまつ。「よだれが出そうなほどいい日陰」は、日焼けを病的に恐れるあまり、日陰しか歩かないヤクルトレディの話。よりによって何故その職を選んだのか。「エムエーエスケー」は脱いでも脱いでもマスクがなくならない伝染病の話。マスクであればなんでもいいらしく、プロレスマスクを脱いだらキャッチャーマスク、ひょっとこ、獅子舞、ヒーローのお面などが次々に出てくる。マスクの種類はある程度自分でコントロールできるので「目立たない医療マスクにすればいいじゃん」と気づいてめでたしという話。「赤子が一本」は、赤ちゃんが当たり景品になっているジュース自販機の話。子供のいない夫婦は、冗談と思いつつも自販機のことが頭から離れなくなり…。個人的には表題作と並んで好みの1作。

 全体を通して雰囲気は軽く、ホラーと呼べるのは「赤子が一本」くらいで、それ以外の話は不条理コントである。ワンアイデアで押し通しているものが多く、真ん中の3本はオチの弱さも目立つ。ホラーがいかに間口の広いジャンルであっても、やはりもう少し“恐怖”寄りに書いてほしい気はする。ちなみに表紙イラスト、収録作すべてのネタが詰まっていて非常に良い。読了後にもう一度見てほしい。

★★★(3.0)