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古典的な怪談ネタをトレンディなファンタジックホラーに昇華した中編-『白い少女』

『白い少女』

桂千穂/1995年/178ページ

うだつのあがらない新進カメラマンの正彦が、踏切事故の現場で出会った不思議な少女・裕美子。彼女を写真に撮るうちに、雅彦は写真家として成功していく。しかしその代償として雅彦に課せられた運命とは……?
少女の妖しい魅力が匂いたつ、リリカルなファンタジック・ホラー。

(裏表紙解説文より)

 

 カメラマンの正彦は、とある事故現場で出会った白い服の少女・裕美子の妖しい美しさに心を奪われる。裕美子をモデルとして撮った写真がグランプリを受賞し、正彦はカメラマンとして名を上げていく。だが正彦の親友である浩は、裕美子の不審な点に気づく。あまりにも冷たいその手。死者の棺に入れられる百合の薫り。しかも、人によっては裕美子の姿すら見えないらしい。さらに浩は、過去の凄惨な事故・事件の現場写真に裕美子と似たような女性が写り込んでいることに気づく。ケネディの暗殺。飛行機の墜落事故。中東戦争。ソンミ村の虐殺。飢えるアフリカの子供達。ジョン・レノンの死。時間と空間を越えて死の現場に現れる、裕美子の正体は何なのか。浩と正彦の恋人・芳絵は裕美子の正体を追い続けるが…。

 

 何十年にもわたってまったく同じ姿で写真に写り続ける人物…という、どこかで聞いたような話(元ネタあるのだろうか)を下敷きにした中編。この世ならざるものに魅入られた芸術家、というモチーフも怪談としてはおなじみのもので、古きよき怪談を現代風のラブストーリーに昇華した一編と言える。こういう話の場合、写真家のほうがモデルに心奪われてしまうのが普通だが、本作の場合は裕美子の方も正彦にご執心で、やたら服を脱いだりして露骨にアピールしてくるのが新鮮というか解釈違いというか、意外と珍しいパターンである。

 裕美子が人ならざる存在であることはかなり序盤で示唆されており、ラストではその正体も明らかになるのだが、「じゃああまりにタイミングよく死んだあの人たちは偶然だったの?」とか微妙にスッキリしない点が多い。ただ作者の狙いは「現代的なファンタジックホラー」であったのだろうし、エモ重視のこのラストになんやかんやいうのも野暮かもしれない。

★★☆(2.5)

 

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