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文章が先か絵が先か、作家と画家の真剣勝負。艶やかで芳しき‟花魍妖”12編-『うろこの家』

『うろこの家』

皆川博子(文)、岡田嘉夫(絵)/1993年/273ページ

美しい言葉たちに導かれて、怪異の世界に踏み入り、妖しい絵に背を押されて、恐怖の扉を開ける……。安土桃山時代の振袖鼠、琉球の紫の小蟹、マハラジャの黒い面紗(ヴェール)の王妃、アールデコの雛人形――が、芳醇な花の香りを放っている。わずか二十枚に封じ込められた、絢爛華麗な地獄曼荼羅、十二話。

(裏表紙解説文より)

 

 幻想小説&ミステリの大家・皆川博子と、一目見たら忘れられない官能的な曲線の絵師・岡田嘉夫による「怪談絵本」。全12編の短編で、上記の解説の通り戦国時代に江戸時代、現代五本に異国の王朝と、さまざまな時代が舞台となる耽美な怪談集であり、どの話も「花」が1つのテーマとして扱われているのが特徴だ。妖しくも美しい岡田嘉夫のイラストは大きめに扱われているが、雑誌掲載時は江戸の絵双紙のようなレイアウトだったらしい。さらに12編中、5編は絵の方が先に完成し、それに併せて物語が書かれたとの事。ここまで来ると作家と画家の真剣勝負、あとがきにある通りの「デスマッチ花魍妖(はなもよう)」である。

 父の妾に会いに来た男が、池の鯉をその肢で弄ぶ女に魅了される表題作「朱鱗(うろこ)の家」。琉球王国の若き王と‟神女”との秘められた恋と、その美しくも凄惨な末路を描く「雙笛(つれぶえ)」。本書の中では珍しいミステリで、儚き華族の少女を蝶と雛人形になぞらえる業前が巧み過ぎる「寵蝶の歌」。個人的に好みだったのはこの3編だが、どの話にも官能的かつ鮮烈なシーンが用意されており印象深い。名作ではあるが、こういう本はやはり文庫ではなく大判の書籍で読むべきではないかという気もする。

★★★★(4.0)

 

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