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謎が謎を呼ぶ寒村の因習。土着的なテーマを意外性たっぷりのミステリとして捌く好短編集-『私の骨』

『私の骨』

高橋克彦/1997年/287ページ

実家の床下から偶然見つかった古びた壷。中には朽ち果てた人骨が詰まっていた。そして、その壷には何故か私の生年月日が記されていた。それでは…自分は、いったい誰なんだ。三十数年前の自身の揺るがざる死亡証拠を手にした私は、自己の存在をかけて真実を追った。やがて辿りついたのは、旧家に残る恐るべき因習であった…。(「私の骨」)他に日本ホラー小説界の第一人者が、恐怖を通じて人間の本質を描き出した秀作六編。

(「BOOK」データベースより)

 

 日本ホラー小説大賞の初期選考委員でもある著者の短編集。正直、個人的にはホラーの印象が薄い作家だったので「何故この人が選考を?」と思ってたりもしたのだが、この短編集を読んでその出来栄えに唸ってしまった。自らの不明を恥じるばかり。


 解説で景山民夫が触れている通り、東北を舞台にした土着的な作品が多め。「私の骨」-実家の床下から見つかったのは、自分の生年月日が記された骨壺だった…という導入から始まる怪奇ミステリ。巻頭作にして本書の中ではもっともトリッキーな1作でもあり、あまりにスッキリしない厭な結末に作者のホラー感が凝縮されているかのよう。田口トモロヲ主演で映像化もされているとのこと。
 「ゆきどまり」-山奥の雪道で交通事故に遭った女を拾った主人公は、猛吹雪の中、彼女を連れて近場の温泉宿に避難することにした。だがその宿は従業員も客も妙な雰囲気を漂わせており…。結末だけ見ればよくあるホラーなのだが、中盤以降の迷宮に囚われたかのような不安感・焦燥感はなかなか素晴らしい。
 「醜骨宿」-将門の隠し金山にまつわる歴史ミステリ。「髪の森」-八甲田山にあるという隠れ館と、柳が生い茂るという“髪の森”に関する怪談。後者は田舎ホラーとしての味わいもあり、最後に正体を現すモノの描写も含めてなかなか絶望的で好きな一編。
 「ささやき」-過去の過ちが追いかけてくる系の話だが、珍しく前向きな終わり方をする。「おそれ」-百物語風に登場人物らが怪談を語っていくオムニバス。それぞれのエピソードがそれなりに面白く、さらに秀逸なオチまでつく傑作。「奇縁」-弁護士である主人公は、「事故で追突された」という奇妙な縁で角田という男と親しくなった。角田の村の青年団が抱えているという問題を解決してやろうとするが…。他の作品とは一味違う寒気を味わわせてくれるサイコホラー。

 「私の骨」「ゆきどまり」「髪の森」「おそれ」はなかなか自分好みだった。ヒット率高い。

★★★★(4.0)

 

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