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ここ30年の現代ホラーを象徴するかのような、バラエティに富んだ恐怖が揃う!-『七つのカップ 現代ホラー小説傑作集』

『七つのカップ 現代ホラー小説傑作集』

朝宮運河(編)/2023年/320ページ

現代ホラー小説30年の至宝を一挙収録。新世紀ホラーシーンへ!

『影牢 現代ホラー小説傑作集』に続く2010年代を中心に発表された傑作ホラー短編7選。小野不由美の“営繕かるかや怪異譚”シリーズからは死霊に魅入られた主人公の心理に慄然とさせられる「芙蓉忌」。土俗的作品で知られる岩井志麻子による怨霊の圧倒的恐怖を描いた海の怪談「あまぞわい」。怪談の存在意義を問う辻村深月の「七つのカップ」など。作家たちの巧みな想像力により紡がれた悪夢の数々がここに。解説・朝宮運河

【収録作】
小野不由美「芙蓉忌」(『営繕かるかや怪異譚 その弐』角川文庫
山白朝子「子どもを沈める」(『私の頭が正常であったなら』角川文庫
恒川光太郎「死神と旅する女」(『無貌の神』角川文庫
小林泰三「お祖父ちゃんの絵(『家に棲むもの』)角川ホラー文庫
澤村伊智「シュマシラ」(『ひとんち』光文社文庫
岩井志麻子「あまぞわい」(『ぼっけえ、きょうてえ』角川ホラー文庫
辻村深月「七つのカップ」(『きのうの影踏み』角川文庫

(Amazon解説文より)

 

 角川ホラー文庫30周年を記念し、同文庫が創刊された1993年以降に発表されたホラー短編を収録したアンソロジー。姉妹編として『影牢 現代ホラー小説傑作集』が発売されている。

 

 小野不由美「芙蓉忌」-実家に戻り独り暮らしを始めた貴樹は、自ら命を絶った弟が籠っていた部屋に奇妙な隙間を見つける。隙間の奥には、隣の料亭の芸妓らしき美しい女の姿があった。女の生活を覗き見るうちにすっかり惹かれてしまった貴樹は意を決して料亭に赴くが、隙間の先にあるはずの部屋には誰もいないという…。建物怪談「営繕かるかや怪異譚」シリーズの1本で、人ならざる存在との恐ろしくも淡い恋が描かれている。

 山白朝子「子どもを沈める」-高校時代のクラスメイトが赤ん坊を殺した。少し経って別の友人も赤ん坊を殺し、さらにまた別の友人も赤ん坊を殺した。彼女らの友人だった私にも赤ん坊が生まれた。赤ん坊の顔は、私たちがいじめていたあの少女とそっくりだった…。生まれ変わりがテーマのホラーは数多いが、逃れられない過去の罪がひたひたと迫ってくる様の心理描写と、予想外の場所へ着地する結末が見事。

 恒川光太郎「死神と旅する女」-時は大正。12歳の少女フジは、死神を名乗る男・時影とともに殺人を繰り返していた。77人を始末すれば家族のもとに帰してやるという時影の命ずるままに、フジは斬って斬って斬り続ける…。作者らしいファンタジックかつ魅力的な世界観が光る。非常に「絵になる」フジと時影だが、単なるキャラクターノベルに収まらないホラー性も作者の持ち味である。

 小林泰三「お祖父ちゃんの絵」-絵の好きな老婆が孫に向けて語る、祖父のことを描いた絵の思い出話。ノスタルジックないい話かと思いきや、雲行きがだんだん怪しくなってきて…。いろいろな意味で悪趣味極まりない快作で、最後まで読んでも‟孫”の存在がなにげに謎めいている。

 澤村伊智「シュマシラ」-UMAを元ネタにした、とあるマニアックな食玩のラインナップに「シュマシラ」なる聞きなれない名前があった。コレクターの中年男性らはシュマシラの正体を探るべく調査を続けるのだが…。およそホラーとは縁が薄そうな食玩という題材を取り上げ、都市伝説的な不可解な世界を紡ぎ出す手腕が見事。

 岩井志麻子「あまぞわい」-町から漁村に嫁いできたユミは、理解のない村人たちと粗暴な夫・錦蔵に悩まされていた。そんな彼女を見初めたのは、脚が不自由な網元の息子。彼の教養と振る舞いに惹かれたユミは逢瀬を重ねるが、その現場を錦蔵に見られてしまい…。死しても男に尽くした「海女」の話と、男に捨てられ悲嘆にくれつつ死んだ「尼」の話。2つのあまぞわい(そわい=浅瀬)の伝承が、男女の業深き関係性を暗示する。『ぼっけえ、きょうてえ』はホント奇跡の様な完成度の短編集だった。

 辻村深月「七つのカップ」-事故が起きた横断歩道の脇に、黒い石の詰まった7つのカップが置かれていた。この奇妙な供え物の意味とはいったい何なのか…。本シリーズの中ではもっとも短く、そしてもっとも異質な話である。ホラーアンソロジーのラストを締めくくるのに、ここまでふさわしい一編も無いだろう。

 

 『影牢』は‟怖さ”を徹底的に追求したラインナップだと個人的には感じたが、一方でこの『七つのカップ』はホラーの持つバラエティ性を重視したように思えた。両書とも、ここ30年の日本のホラーシーンをさらなる未来に伝える良アンソロジーと言える。

★★★★(4.0)

 

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