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家族が「得体の知れない他人」に変わる刹那を描く、ホラー+サスペンス短編集-『魔少年』

『魔少年』

森村誠一/1996年/368ページ

何一つ不自由のない家庭に育った子供が起こした「いたずら」。そこには恐ろしい意味が隠されていた―。ホラー短編の最高傑作『魔少年』をはじめ、“顔のない男”に日夜悩まされる『空白の凶相』。女の執念の憎悪を描く『雪の絶唱』。共犯であるはずの男から脅迫される『死を運ぶ天敵』など、人間の心の暗部を映す、現実的ホラー短編集。

(「BOOK」データベースより)

 

 講談社文庫、後に角川文庫で刊行された短編集の復刊。「魔少年」-級友のペットを殺したり、事故を仕組んだり、脅迫状を出したりと“子供だから許される範囲”ギリギリの悪事を行う少年。決定的な証拠を掴ませない彼に対し、周囲の大人は「彼は悪事の天才だ」と認めざるを得なかった。しかし、ついに死人が出てしまい、魔少年と思われた彼の背後が明らかになり…。「空白の凶相」-子供の頃、親からの虐待を受けていた井沢は「息子に夫婦の営みを見られる」ことを異様に恐れていた。あまりの神経質さに妻の欲求不満は溜まりつつあったが、井沢は「妻が不貞を働いているに違いない」と被害妄想を募らせていき…。本作の中で「ホラー」と呼べるのは巻頭のこの2作くらいしかないが、両作とも「家族が得体の知れない他人」に変貌する瞬間を切り取り、不安を募らせる良作である。続く「燃え尽きた蝋燭」は好き勝手生きてきた寝たきり老人がアパートの火事に巻き込まれ、己の過去を悔恨する…という流れから、読者に人生の無常さを思い知らせる非常に厭な結末を迎える佳作。

 残りの4作は殺人事件を扱ったサスペンスであり、ホラーを求める向きにはやや物足りないかもしれない。「雪の絶唱」-妻と会社の部下にダブル妊娠を告げられた男は、部下の女性を旅行に誘って堕胎を懇願するのだが…。「死を運ぶ天敵」-かつて起こした轢き逃げ事件をネタに強請られた三田は、恐喝相手を殺害。しかし三田の研究していた「天敵」と、とある推理小説作家が彼を追い詰めていく。「殺意開発公社」-ハニートラップに引っかかった開発公社の課長がいろいろやって人が死んだりする。「殺意中毒症」-仕事中毒の課長がいろいろやって人が死んだりする。これら4編に共通するのは「主要人物、全員悪人」という点くらいで、それなりにスッキリするがやはりホラーではないなと思う。

★★★(3.0)

 

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