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作者と読者と角川書店をも巻き込み降り注ぐ、心湿らす永遠の雨。思春期ミステリの大怪作-『X雨』

『X雨』

沙藤一樹/2000年/335ページ

一月のある快晴の朝、小学生の里緒の前に一人の少年が現れた。何故かレインコートを着ていた少年はフードをとり、潰れた右目をあらわらにすると、自分には見えるという、“X雨”のことを話しはじめた―。15年後、作家になった里緒は記憶に刻まれたこの話しを書き始めた。そして、物語の結末を完成させるため小学生時代を過ごしたあの街へ出発するのだが…。日本ホラー小説大賞短編賞受賞作家が緻密な構成と斬新な表現で切り拓いた新境地。過剰な衝動に恐怖と感動が交錯する傑作ホラー。

(「BOOK」データベースより)

 

 小学生の恵健吾(メグ)、今井丈太郎(ジョータ)、真辺鈴子(スー)、八坂絵美(エミ)の4人は、クラスメイトの飛び降り自殺を間近で目撃して以来、自分たちにしか知覚できない雨「X雨」の存在を知る。X雨は常に降り続け体を濡らすほか、X雨に紛れて不定形生物「雨の者」が襲ってくるため、メグたちは晴れの日でも傘を差さざるを得なかった。周囲からは冷やかされるものの、X雨は彼らの結束を強くしていく…。

 特定の人間にのみ振り続けるX雨というアイデアがまず面白い。非常に象徴的であるし、主人公4人がただの友人とは言い切れない、薄暗い秘密と欲望を抱えた危うい関係であることも緊張感を漂わせる。

 

 読み進めていくと「なんじゃこりゃ?」と興を削ぐ場面もいくつかある。中盤、地下の国のエージェントを名乗るタカミタという人物がいきなり登場し、雨の者と戦うために呪器、その名も〈飛空視鬼式〉〈緑葉剣〉〈籠目乃符〉〈輝輪〉という恥ずかしいセンスのアイテムを4人に授ける展開には大部分の人がずっこけるはず。また、本作の語り手である小説家が「成長したメグから直接聞いた話(一人称)」と「メグたちの話を基に自分で書いた小説(三人称)」を、自分の独白と共に混ぜこぜにして読ませる意味も分からない。一人称での語りに無理が出てきたから三人称に無理やり変えたような印象すら受けてしまう。

 で、本作のヤバいところは、そうした「なんじゃこりゃ?」という違和感がすべて後半の第二章で解決してしまうところである。第二章では小説家がメグの冒険譚を検証するために取材に赴き、メグがいかに信用ならない語り手であったか、そしてなぜ彼がフェイクを入れたのか、1つ1つプロファイリングしつつ暴いていく。禁じ手ギリギリのメタフィクションであり、いわゆる「叙述トリック」とは異なるものの、それに近いような困惑と興奮を得ることができる。怪作にして傑作である。

★★★★★(5.0)

 

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