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東京・新潟・沖縄を股にかけての呪術会戦。呪いが残すのは「証言者」のみ-『なまなりさん』

『なまなりさん』

中山市朗/2022年/196ページ

沖縄で退魔師の修行を積んだというプロデューサーの伊東礼二。彼の仕事仲間の健治が、今日子という女性と婚約をした。しかし今日子は、妖艶な双子姉妹による執拗ないじめにより死に追いやられる。今日子の死後、双子姉妹の周囲で奇妙な事件が続発するようになる。やがて被害は双子の実家へと移る。目の前で起こる信じがたい事実…。呪いや祟りとは本当に存在するのだろうか?体験者本人によって二日間にわたり語られた体験記。

(「BOOK」データベースより)

 

 作者が知り合った“映像関係のプロデューサーにて退魔師”という面白過ぎる経歴を持つ、伊東氏が語る長編実話怪談。美人だが性格が終わっている双子姉妹からいじめを受け続けて自殺した女性が、死ぬ間際に強烈な呪術を遺していた。伊東氏は姉妹の父親に呼ばれて新潟の実家へ向かうが、怪異はすでに姉妹を、母親を蝕んでおり…。
 語り口の巧さはさすがで非常に読みやすく、東京から沖縄、新潟と次々舞台を移して怪異が起こる様は劇場版のよう(実際、本書は読んでいるだけで映像が頭の中に浮かんでくる)。じわじわと追い詰めるかのようなタチの悪い怪異も厭らしく、クライマックスの除霊儀式に向けエスカレートしていく様も実にスリリングで、中山氏の怪談実話の集大成とも言えるような一編。「呪いは、証言者を残す。」という後日談の一節が心に沁みる。
 本書の唯一にして最大の欠点は、語られる恐怖が身近でない点だろうか。個人的に実話怪談の怖さは解釈不能の理不尽さにあると思っているので、正統派の因縁・怨念話である本書からは「いつか自分も巻き込まれるかもしれない」という不安を感じない(序盤の双子によるいじめシーンで「さっさと警察に相談すればいいのに」と思ってしまう)。「意地悪な姉妹が呪われてヒドい目に会いました」というスカッとジャパン話であって、他人事だからこそ面白がることができる内容とも言える。

★★★☆(3.5)

 

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