『怪談狩り 葬儀猫』
中山市朗/2023年/256ページ
怪異蒐集家が厳選して語り継ぐ、本当に怖い怪談実話集。
コロナ禍の町で、異様な格好の男を目撃した主婦の体験が不思議な「面布」。引っ越したばかりの地で、近所で立て続けに起きた不幸と、その共通点に震撼する「大黒柱」など、日常で遭遇する恐怖に加え、八甲田山雪中行軍遭難事件と千日デパート火災事故という2つの歴史的な事件にまつわる怪異の総括を収録。障りを危惧して伏せていた事実など、今だからこそ書けるエピソードも。実話怪談の先駆者が、土地に刻まれた記憶を語り継ぐ。
(Amazon解説文より)
本書の後半部分を占める「八甲田山」関連のエピソードが興味深い。『新耳袋 第四夜』に収録された怪談「八甲田山」の真相と、同エピソードにまつわる数々の怪奇現象は、この業界で幅広く活動する作者にしか書き残せないものだろう。あのバチあたり集団『新耳袋 殴り込み』のメンバーですら躊躇する、恐るべきメッセージとは…。
正直なところ、八甲田山関連以外の話はどうもパンチに欠けるものが多い。大仰さが無いぶんリアルな雰囲気を醸し出す話が多めなのは本シリーズの特徴だと思うが、自販機に130円入れたのに120円と表示された話などは「故障やんけ」以外の感想が無いし、「コロナ禍の街で、背中に“コ”の字が入った法被を着た怪人物がいた」という話も反応に困る。猫の行動に納得がいくようないかないような不穏さが漂う表題作「葬儀猫」、前巻『山の怪談』に載っていてもおかしくないやや長めのエピソード「杣の山」、ビジュアル面の怪奇さが際立っている「山の集団」など、印象深い話がないわけではないのだが。
★★★(3.0)