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最終的に「やっぱこの味だよね」と落ち着く円熟味。もはや実話怪談界のふるさと-『怪談狩り まだらの坂』

『怪談狩り まだらの坂』

中山市朗/2024年/256ページ

怪異蒐集家が厳選して語り継ぐ、本当に怖い怪談実話集。

警察官たちには、そのまま報告書を提出できない説明不可能な事件の記録がある――深夜に起きた交通事故が奇妙すぎる「物損事故」。ある夏の日に、突然町に蔓延した異臭と、住宅街の坂道が白と黒のまだら模様になっており、その正体に震撼する「まだらの坂」。独居老人の孤独死をめぐり、アパートの住人たちの証言が微妙に食い違っていることが、不気味な真実を浮かび上がらせる「周りの証言」。四国の山奥に生物観察に行った大学院生が、人の気配のない村に迷い込み無気味な怪異に遭遇する「靴」など、実話怪談の先駆者が放つ、選りすぐりの恐怖。

(Amazon解説文より)

 

 67話を収録した実話怪談集。ある日突然、異臭と共に坂が‟まだら模様”になる表題作「まだらの坂」は、その厭すぎる‟模様の正体”と、一連の出来事の‟関係性があるんだかないんだかわからない意味不明さ”が印象深く、これぞ実話怪談といった内容。鬱病の少年をケアする語り手を見舞う理不尽かつ無惨なエピソード「野球のボール」、ちょっとした‟ずれ”の違和感が常識を揺さぶる「上野公園」、本能的な恐怖を煽る‟山の異形”に遭遇した人々の焦燥が伝わる「女であって人ではない」など、いつにも増して粒ぞろいの怪談揃いである。奇妙極まりない転生譚のような‟何か”、「スズキユウイチ」の不気味さもよい。ラストの「ノブヒロさん・後日談」『新耳袋・第七夜』の最恐エピソード「ノブヒロさん」にまつわる、『新耳袋殴り込み 第一夜』で語られた後日談のそのまた後日談。「新耳袋」ファンなら外せない一編…かもしれないが、個人的には「ノブヒロさん」自体、語り手の主観があまりに強いせいかピンと来ていないので何とも言えない。

 「死んだはずの人に出会った」「話していた人がパッと消えた」という、怪異としては小粒な話も多いのだが、そういう話でも陳腐さを感じさせない語り口はさすがの中山市朗である。「本町駅」などは冷静に分析すれば語り手の勘違いで済む話では? で終わるのだが、これに似た体験はわりと多くの人がしているのではないだろうか(少なくとも自分は4、5回はある)。

 実話怪談というジャンルはすでに細分化し、個性を発揮しつつ「単なる実話怪談の一歩先」を目指す書き手も増えており大変勢いがある状況だ。そんな中、えげつない特級怪異と共に「身近にある不思議な話」というオーソドックスも外さないこのシリーズは「安定ぶり」が個性になっている。最近「竹書房怪談文庫」などを大量に読み漁っていたので、「怪談狩り」独自の良さを改めて感じ取れた次第。シリーズ未読者どころか実話怪談初心者にもおすすめしたい、バラエティ豊かで怖い1冊だ。

★★★☆(3.5)

 

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