角川ホラー文庫全部読む

全部読めるといいですね。おすすめ作品等はリストから

キャラの深掘りと会話劇中心に進む作品。好きだけど面白さを伝えにくくて困る-『ラスト・メメント 商人と死』

『ラスト・メメント 商人と死』

鈴木麻純/2013年/ページ

人が苦手で無愛想。趣味は遺品集めという高坂和泉には特異な能力がある。それは死者の想いを観られるということ。和泉は、ある特別な絵画を報酬に、開かずのアンティークオルゴールの鍵探しをすることに。箱に遺された想いから手掛かりを得ようとするが、なぜか上手くいかない。そんな和泉の前に、トラウマを与えられた葬儀社の男、透吾や絵画蒐集のライバル、貴士も現れて…。死者が遺した優しい秘密。シリーズ第2弾。

(「BOOK」データベースより)

 

 遺品から死者の想いを読み取る能力を持つ蒐集家・高坂和泉は、芸術家である父の知り合いから、とある彫刻家が遺したオルゴールの鍵を探してくれないかと頼まれる。報酬は和泉が蒐集している絵画シリーズ「死者の行進」の1枚である「商人と死」。だが同じく「死者の行進」を集めている比良原貴士もその場に現れ、2人はどちらが先に鍵を探し出せるかという勝負をすることに。さっそくオルゴールから想いを読み取ろうとする和泉だが、彼の能力は葬儀屋・藤波透吾と関わった事件のトラウマから失われてしまっていた。和泉の知り合いにして世話好きのカメラマン・国香彩乃は、不調の和泉に代わって独自に鍵のありかを探そうとするが…。

 

 前作以上にホラー感がなく、謎解き要素も薄いのでミステリとも言い難い。和泉を中心とする登場人物たちが、ひたすら自分の生き方を深掘りしていく会話劇がメインとなる。個人的に嫌いではないのだが、この偏屈ながらも愛嬌のあるキャラクターに感情移入できるかどうかにかかっているため、なかなか魅力を伝えにくい作品である。

 新キャラの比良原貴士は、和泉が蒐集している絵画「死者の行進」を描いた比良原倫行のひ孫にして和泉の実の母親の愛人、その実態は卑劣な策を得意とする粋がりのチンピラという妙な属性詰め合わせセットであり、今のところただの小物である。それよりも人の死を嫌悪する葬儀屋・藤波透吾のサイコっぷりにますます磨きがかかっており、コイツとの決着のつけかたのほうが気になってしまう。弁舌爽やかながらまったく信用できない得体の知れなさを漂わせる人物…というキャラ自体は珍しくないが、透吾はその突き抜けっぷりで数多のなんちゃってサイコパスを凌駕している。1ミリも応援できないのにその言動から目が離せない、異様な男である。前作の時点ではお節介女にしか見えなかった彩乃は、強引さは相変わらずながらその押しの強さをきっかけに和泉と友情を結んでおり、いいキャラになったと思う。

★★★☆(3.5)

 

著者 : 鈴木麻純
角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日 : 2013-03-23

www.amazon.co.jp