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偏屈な遺品蒐集家の青年が、死者の遺した想いを鍵に謎を解く!-『ラスト・メメント 死者の行進』

『ラスト・メメント 死者の行進』

鈴木麻純/2013年/371ページ

遺品蒐集を趣味とする青年・高坂和泉は、様々な死を描いた一連の絵画“死者の行進”を集める中で、好奇心旺盛でお節介な駆け出しカメラマン・国香彩乃と出遭い、遺品をめぐる厄介な事件に関わることに…。写真家の遺児のもとに現れるお化けの正体、老地主の奇妙な遺言ゲーム、亡き恋人からの最後のプレゼントの行方ー故人の想いを“鑑賞”する和泉が見つけ出す真実とは?生と死をつなぐゴシック・エンタテインメント。

(「BOOK」データベースより)

 

 遺品蒐集が趣味のやや偏屈で毒舌な青年、高坂和泉は「遺品から死者の想いを読み取る」という能力を持っていた。そんな彼が、この能力を用いて様々な依頼や謎を解決していくというミステリ仕立てのシリーズ。この手の作品にしては珍しく、和泉自身は死後の世界を認めておらず、幽霊も信じていない。彼は己の能力については「鑑賞眼」の一種だととらえているようである。

 

 「幼児と死」-和泉は「死者の行進」と呼ばれる一連の絵画を集めていた。その中の一枚、「幼児の死」を譲りうけるため、写真家・杠葉敦の家を訪れる和泉だったが、彼はすでに死亡しており、遺族であるまだ中学生の娘・真弥は「父のすべての遺品は処分する」と取りつく島もない。杠葉敦のかつての教え子だったカメラマン・国香彩乃、同業の写真家・松原茜と出会った和泉は彼女らとともに杠葉家に赴き、真弥と話をしようとする。そこへ現れた杠葉敦の幼い息子・諒太郎は「パパのお化けを見た」と訴える。家の中を荒らし遺品を持ち出す存在は、本当に杠葉敦の幽霊なのか?

 「元老院議員と死」-死の間際にある実業家・今井正晃は、「遺言状を見つけ出したものに遺留分を除いた財産を相続させる」と宣言。画家である父親・高坂五樹からの紹介で遺言状探しに駆り出されることになった和泉は、今井家で彩乃と再会。所在なく物置をひっくり返したりしているうちに、和泉は正晃老人の深い孤独と家族への不信感に気づく。遺言状の在処は、そして今井家に遺される「財産」とはいったい?

 「貴婦人と死」-彩乃の友人・由佳里から「死んだ恋人・司が送ってくれるはずだった遺品を探し出してほしい」という依頼を受けた和泉。司の後輩であると偽って、いまだ息子の死を認めようとしない母親の家にあがりこみ親睦を深めていくが、そもそもがコミュ障の彼にとっては罪悪感も相まってキツい仕事だった。そんな折、和泉は「司の母親を立ち直らせたい」と語る葬儀社の男・藤波透吾と出会う。真意の見えない透吾の言動にうさんくさいものを感じつつも、彼に協力する和泉だったが…。

 

 死者に関する物語とは言え、ホラー味はかなり薄い。とは言え、地に足のついたリアリティと、真相が気になる程よい謎のおかげで退屈せずに読むことができる。かなり奇矯な登場人物も多いが、これもキャラ立ちわざとらしくなるギリギリのところで抑えていて好感が持てる。彩乃は正直なところかなりウザったい「自称サバサバ系」の雰囲気がするので、続刊で持ち直してほしいところだが…。

★★★☆(3.5)

 

著者 : 鈴木麻純
角川書店(角川グループパブリッシング)
発売日 : 2013-01-25

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