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最強最悪のヴィランにやり込められたまま終わる最終巻。だが…?-『ラスト・メメント 兵士と死』

『ラスト・メメント 兵士と死』

鈴木麻純/2013年/287ページ

お節介な写真家の卵・彩乃の誘いで、便利屋のバイトをすることになった和泉。老婦人の遺品整理を頼まれた先で、死を嫌悪する葬儀社の男・透吾と絵画蒐集のライバル・貴士に出くわす。故人の娘と息子がそれぞれ別の業者に依頼していたのだ。これまで死者の想いの数々を透吾に踏みにじられ、苦い記憶の残る和泉は彼の思惑を防ごうとする。そんな中、絵画“死者の行進”の一枚がこの家で見つかり…。遺品に宿る切ない謎、第3弾。

(「BOOK」データベースより)

 

 絵画蒐集家の高坂和泉は、知人のカメラマン・国香彩乃の紹介でアルバイトをすることになった。かなりパンチの効いたオネエである雇い主の便利屋・石狩三国の猛烈アピールに辟易としながらも、遺品整理の現場に向かう和泉と彩乃。が、現場では因縁の相手である葬儀屋・藤波透吾と、なぜか葬儀屋でバイトすることになったらしい絵画蒐集のライバル・比良原貴士と遭遇してしまう。しかも貴士は、和泉も集めている絵画「死者の行進」の中の1枚、「兵士と死」を現場で発見。依頼主からは「捨ててしまっても構わない」と言われた「兵士と死」を持ち帰ろうとする貴士だったが、その行動がさらなるトラブルを呼ぶことに…。

 

 相変わらずホラーとは言い難い内容で和泉の能力もかなり出番が少なめ、ミステリのような謎解き要素も薄いのだが、キャラクターの心情の描き方が非常に巧く、読み応えはある。今回は和泉にとっては「母親の愛人」というだいぶ気まずい相手でもあるイキリ大学生・貴士と、1作目でちらっと出てきたカラクサ葬祭の娘・万里の掘り下げがなされるのだが、彼らの前に立ちはだかる存在となるのが死者を異様なまでに憎む葬儀屋こと藤波透吾である。見せかけは人当たりのいい好人物ながら、他人のものであろうと遺品を破壊することに何の躊躇も抱かない二面性はほとんどサイコパスの所業。正論ですべてを押し通すこいつの強さと悪辣さは、角川ホラー文庫全体で見てもそうそうお目にかかれないほどの見事なヴィランっぷりである。本作ではついに、和泉と貴士が収集している「死者の行進」まで手をかけてしまうのだ。結果的に和泉は透吾の暴挙を阻止することができず、またもや後味の悪い結果となってしまう。

 角川ホラー文庫では本作が最終巻となり、正直なところどうにもスッキリしない終わり方になっているのだが、「カクヨム」ではシリーズの完結エピソードである4作目『ラスト・メメント 貴族と死』が公開されている。『兵士と死』まで読み進めたのならこちらも必読だ。

kakuyomu.jp

 

 ついに明かされる藤波透吾の過去に加え、甘ったれのクソガキだった貴士の再出発、自分の変化を自覚する和泉など、それぞれの主要キャラの「これから」を描く、読者の需要に応えまくってくれた展開。いろいろぶっ飛んでる和泉の両親も、便利屋〈猫のヒゲ〉の三国チャンも、カラクサ葬祭のキーパーソンも出てくる真の最終章である。

★★★☆(3.5)

 

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