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死の影を視る探偵が、豪邸で起きた連続怪死事件に挑む。シリーズの1作目として完璧!-『十三の呪 死相学探偵1』

『十三の呪 死相学探偵1』

三津田信三/2008年/346ページ

幼少の頃から、人間に取り憑いた不吉な死の影が視える弦矢俊一郎。その能力を“売り”にして東京の神保町に構えた探偵事務所に、最初の依頼人がやってきた。アイドル顔負けの容姿をもつ紗綾香。IT系の青年社長に見初められるも、式の直前に婚約者が急死。彼の実家では、次々と怪異現象も起きているという。神妙な面持ちで語る彼女の露出した肌に、俊一郎は不気味な何かが蠢くのを視ていた。死相学探偵シリーズ第1弾。

(「BOOK」データベースより)

 

 弦矢俊一郎は、幼いころから「死」を具体的なビジョンとして見ることができた。高名な拝み屋である祖母の援助を受け、成人した俊一郎は東京・神保町に探偵事務所を構える。もちろんただの探偵ではなく、「死相を視る能力」を活かし、その能力を俊一郎自身が生涯をかけて受け入れていくための‟死相学探偵”稼業であった。

 事務所を開いた当日、荷物解きも終わっていないうちに訪れた最初の依頼人・内藤紗綾香。「昔から死神に憑かれている」と訴える彼女はキャバクラ嬢で、豪邸に住む名家・入谷家の次男であるIT社長・秋蘭あきらに見初められたが、結婚式の直前に秋蘭は心不全で急死する。喪に服すため入谷家で過ごすことになった紗綾香だが、長女の春美、長男の夏樹は紗綾香のことを財産狙いで弟に近づいたアバズレ扱いし、次女の冬子も敵意を隠そうとしない。母親の淑子、三女の四季子、家政婦の志茂文江は紗綾香にまだ好意的だったが、彼女の入谷家での立場はつらいものだったという。

 彼女の周囲になにも死相らしきものは見えず、俊一郎はすげなく彼女を追い返す。だが秋蘭の遺言が発表され、紗綾香が遺産の大半を受け継ぐことが判明して以来、紗綾香を含めた入谷家の人々に様々な怪奇現象が起きるようになる。階段で足を踏み外し、近くの置物が落下し、腹痛に襲われ…。いずれも些細な出来事ばかりだったが、紗綾香は不安を覚えて再度俊一郎の元を訪れる。以前とは異なり、おぞましい姿の死相が彼女を蝕んでるのが見えた。死相の原因を調べるため入谷家を訪れる俊一郎は、紗綾香だけではなく入谷家のすべての人間に死相が取り憑いていることを知る。この一家を呪う何者かの正体は? そしてその目的はいったい何なのか…。

 

 話は非常にテンポよく進み、かつ過去のエピソードも交えつつ人物紹介と深掘りを展開していくのでたいへん読みやすい。作者にしては全体的にライトな雰囲気で、起こる怪現象もグロテスクさ、気味の悪さは薄めだが、遺産相続に絡む殺人事件というお約束のシチュエーションを巧く調理していて読みごたえはじゅうぶん。探偵業に支障をきたしかねないレベルのコミュ障である俊一郎も、この手のホラーミステリではよくいるタイプではあるがそれなりに好感が持てる程度の絶妙なひねくれぶり。いまだ全貌が明かされない彼のバックグラウンドも気になる部分が多く、続編も気になる構成だ。シリーズ1作目としては完璧に近く、軽めの謎解きを読みたいときにはぴったり。

 本シリーズの1~3巻のカバーイラストは田倉トヲル、きたがわ翔の2バージョンがある。4巻以降は田倉トヲルで統一されているようだ。

★★★★(4.0)

 

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