『歩く亡者(ぼうもん) 怪民研に於ける記録と推理』
三津田信三/2025年/368ページ
無明大学にある「怪異民俗学研究室」(怪民研)は、作家であり探偵である刀城言耶の研究室で、膨大な書籍と曰くある品で溢れている。瞳星愛は、昔遭遇した“亡者”の忌まわしい体験を語るため怪民研を訪れた。言耶の助手・天弓馬人は熱心に推理を巡らせ、合理的な解釈を語るが、愛はある事実に気づいてしまう。首無女、座敷婆、狐鬼、縮む家ー数々の怪異と謎に2人が挑む。本格ホラー・ミステリの名手による新シリーズ、開幕!
(「BOOK」データベースより)
講談社文庫などで展開されている「刀城言耶シリーズ」の姉妹編で、全5編の連作短編集。本書に刀城言耶自身は直接登場せず、過去作を未読でもじゅうぶん楽しめる。
無明大学の地下には、日本各地を民族採訪する怪異譚蒐集家、作家にして名探偵である刀城言耶の研究室があった。その名は怪異民族学研究室、略して怪民研という。拝み屋の祖母を持つ大学一回生・瞳星愛が、刀城の助手にして怪民研の主・天弓馬人にさまざまな怪異譚を話し、超怖がりで作家の卵でもある天弓が謎解きをする…というのが各話の流れになる。
「歩く亡者」-刀城の紹介で怪民研を訪れた愛は、10歳のころに自らが体験した“亡者”の目撃談を語る。友達と遊んだ帰り、近道をするため海で死んだ者が返ってくるという“亡者道”を通ることにした愛は、漁師町で人気の優男・昭治が歩いているのを見る。だがその姿は、説明できない強烈な違和感と恐怖を感じさせるものだった。愛は走って逃げだしてしまうが、その後、昭治は水死体となって発見される。警察は自殺と結論づけたが、愛はあの日の昭治の姿を思い出し、その後も震えることになる。自分が見たのは果たして生前の昭治だったのか、それとも亡者として帰ってきた昭治だったのか――。愛の話を青ざめながら聞いていた天弓だったが、すべての謎を合理的に説明するため、ある仮説を立てる。
「近寄る首無女」-海外小説好きの中学3年生・杏莉和平はクラスメイトの頭類貴琉と仲良くなり、頭類家の蔵書を読み漁る毎日を送る。通いつめるうちに貴琉の祖母から気に入られた和平は、頭類家にまつわる「淡首様と首無の祟り」の話を聞かされ震えあがるのだった。そしてある日の帰り、和平は赤い水玉模様のワンピースを着た、首と両腕の無い女の姿を目撃してしまう。これは淡首様の祟りなのか。それとも、頭類家の屋敷を狙う何者かの仕業なのか…?
「腹を裂く狐鬼と縮む蟇家」-刀城が採集した3つの怪異譚。一つ目は、ある山奥の村で起きた連続怪死事件。鉄の檻で作られた、熊用の罠に閉じ込められた子供が腹を裂かれた状態で見つかる。だが檻の中には子供の遺体しか見当たらない。正体不明の犯人はどこへ消えたのか…。二つ目は、遭難した登山客が山中で見つけた奇妙に小さい家の話。中には明らかに誰かが居た形跡があるのに、どこを調べても誰もいない…。三つ目は、二つ目の話にも出てきた小さい家の話だが、7、8年の時を経て、その家はさらに縮んでいたという…。いつものように怖がりながら愛が語る怪談を聞いていた天弓だったが、この3つの話が一本の線でつながっていることに気づく。
「目貼りされる座敷婆」-明和大学の妖怪研究会、5人のメンバーが妖怪“座敷婆”が出るという旅館に泊まることになった。当の奥座敷には、研究会会長の泰加子が一晩を過ごすことに。座敷前の廊下は文学青年の郡上、隣の中座敷には食いしん坊の蟻馬、縁側には真面目で利発な小山内が見張りをし、真上の2階の奥座敷には新入生の眞世が寝ることになった。そして深夜、見張りをしていた4人が寝入ってしまっていたころ、泰加子が何者かによって首を絞められるという事件が起きる。奥座敷の襖は目貼りがされており、誰も中には入っていないはず。泰加子を襲ったのは座敷婆なのか、それとも…?
「佇む口食女」-市井の民族学者を自称する東季賀才は、竹迫村へ向かう途中で遺体を野焼きしている現場に出会う。取材がてら、賀才が先日体験した口裂け女の目撃譚を話すと、火葬人は「……くちばおんな」とつぶやいた。この辺りには高熱を出したのちに獣のように這いずり回って死ぬ恐ろしい風土病があり、この病に罹って死んだ女は口食女になるのだという。興味を覚えた賀才は竹迫村に到着後、村での葬儀の様子を見物しようとするが、そこで世にも恐ろしい体験をする…。
ひとつひとつの話は独立しており、語り手も起きる怪異もバラエティ豊か。怪異の仕業としか思えない奇妙な事件を、安楽椅子探偵さながらに天弓が解決していくのが見どころではあるのだが、「本当に…?」というちょっぴりイヤなしこりが残ることも多い。ホラーミステリ…というよりは「ホラーであり、ミステリでもある」と形容すべきだろうか。さっくり読めると同時にじっくり楽しめる、万人向けの1冊である。ラストでは刀城言耶シリーズとはまた別の、とある作品と強烈にリンクしていることが明かされるというファンサービスもある。
★★★☆(3.5)

