角川ホラー文庫全部読む

全部読めるといいですね。おすすめ作品等はリストから

“造られた神”を殺せるか? 虚と実を揺蕩う新世代実話怪談、ここに完結-『拝み屋怪談 壊れた母様の家〈陽〉』

『拝み屋怪談 壊れた母様の家〈陽〉』

郷内心瞳/2019年/304ページ

高鳥千草の元夫、謙二から娘に亡き妻が憑いたと相談を受けた拝み屋の著者は、さっそく原因の解明に動き出す。その過程で拝み屋の深町と桔梗、占い師の小夜歌、そして霊能師の美琴と浅からぬ縁で繋がり、行動を共にすることになった。一方で、こちらも著者と因縁深い老姉妹の一団が、ある“神さま”を目覚めさせようと暗躍していた…。過去と現在の点と点が線になり、膨れに膨れ上がった災禍の核心に迫る、シリーズ最終巻!

(「BOOK」データベースより)

 

 マダム陽呼&マダム留那呼の目的は「シロちゃん」の亡骸を基に新たな神を造り出すことだった。著者と因縁深き外道拝み屋・芹沢真也もその名を変えて神の力を狙う。

 明らかになる深沢の過去。小橋美琴と浮舟桔梗の関連。美月に降りた千草の霊の秘密。佐知子がどうしても思い出せない、神の「真の名」。著者の過去を巻き込みつつ、明らかになっていく様々な事実。そしてついに「●●様」との最終決戦が始まる――!!

 

 実話怪談として本書を読む人は「なんじゃこりゃ」と思うかもしれない。だが、本シリーズがかなり初期からたびたび描いてきたテーマは「フィクションが持つ力」の強大さである。人を呪う心は実際に呪いとなり、妄執によって生み出されたタルパ(イマジナリーフレンド)や神は実体を持つ。こうした世界観は実話怪談とよくマッチしている。…というのも、「実話怪談ってホントに実話なの?」「なんでわざわざ実話として語るの?」という禁断の問いに対して、本シリーズ自体が1つの解答になっていると思われるからだ。

 ●●様との対決のあと、エピローグでは「花嫁の家」の怪異との最後の対決が語られるのだが、ここでは「本シリーズを読んで来た読者の力」が著者の窮地を救う、という非常にメタな展開が待ち受けている。読者と現実世界を「著者の妄執」という領域内に完全に取り込む、トドメの一撃である。

 これが許されるのも、虚と実のちょうど狭間に位置する「拝み屋怪談」ならでは。新世代の実話怪談シリーズとしての凄まじさを改めて見せつけられたという印象。完敗!

★★★★★(5.0)

 

◆Amazonで『拝み屋怪談 壊れた母様の家〈陽〉』を見る(リンク)◆

www.amazon.co.jp