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怪談同士の有機的な絡み合いが読み応えを増す、実話怪談集として究極に近い1冊-『拝み屋怪談 禁忌を書く』

『拝み屋怪談 禁忌を書く』

郷内心瞳/2016年/293ページ

最期まで優しい母として逝った依頼主、忌まわしき白無垢姿の花嫁、昵懇の間柄だったひと、心に怪物を抱えた女――。四人の女性の存在と彼女たちとの顛末を中心に、現役の拝み屋が体験・見聞した最新怪異譚を収録。決して触れてはいけない闇と、ときとして人の温情がもたらすあたたかな光。双方が生み出す不可思議な事象は、そのどちらも怪異が持ち得る姿である。生者と死者が灯した火が怪しく揺らめく、厳選の53編!

(「BOOK」データベースより)

 

 今回は4人の女性にまつわる連作エピソードを中心に、筆者の実体験や聞き集めた怪奇譚を並べた構成になっている。死の間際でも高潔だった依頼人を想い、拝み屋の限界を描く「ほのかさん」。前巻『花嫁の家』執筆中に巻き起こった怪異「禁忌を書く」。傍迷惑な依頼人と狂笑する不気味な幻影の関係は? 「嗤う女」。以上に加えて、タイトルはばらばらだが連作になっているエピソードがもう1つある。単発の怪談かと思っていた話が、後に意外な形で真相が判明する…という構成のおかげで、個々のエピソードが有機的に結びついた1冊となっている。本書だけでなく、シリーズ前巻の話すら再登場したりするのだ。素晴らしき伏線回収(ヒトは「人生には意味があってほしい」と願う生き物なので、伏線回収があるだけでなんとなく嬉しくなってしまうのではないか)。

 連作エピソード以外の話も粒ぞろい、と言うかかなりエグめである。よくある廃墟怪談なのにハチャメチャに怖い「式神ホテル」、これまた筋立て自体は既視感があるのに不気味さが半端ない「寂しがり」などは筆者の語り手としての力量に感心する。巻を重ねるごとに完成度が高まっているのがわかる、ハズレの無いシリーズである。

★★★★☆(4.5)

 

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