『現代百物語 妄執』
岩井志麻子/2015年/224ページ
刑務所で病に伏せる罪人に高額な医療費を送りつける逆・死神。古書店で入手した一般人の日記帳に綴られた壮絶な書き込み。ファンから著者に贈られた鍵と簡素な地図。女性ライターの股間に憑いたインチキ霊能者の生霊。どう考えても腑に落ちない、霊とも人間の仕業とも解釈できない出来事から、人間の強烈な悪意や剥き出しの狂気まで。平穏な日常を不安に陥れる99話を収録。知ってしまったことを後悔する、これが現代の怪異譚!
(「BOOK」データベースより)
今回は霊に関する話はかなり少なめで(皆無ではないが)、タイトル通り、人の妄執が生んだとしか思えない恐ろしい話、奇怪な話が多め。オバケだの幽霊だのといった怪異が不可解なことをしていても「それはそういうもんだ」で済むけれど、意思疎通できるはずの生きている人間が理解できない行動をとっているのは普通に怖い。バイト先の副店長の家に招かれた女性が台所で見た恐ろし過ぎる光景「第三十三話 怖いもの」、本人の行動もその妻の反応も不可解極まりない「第六十六話 ピンポンダッシュ先生」、謎の死を遂げた女性ライターが遺した一文が耐えがたい不穏をもたらす「第八十七話 最後の原稿」など、怪奇現象のカケラも無いのに印象深い話が多い。
「第二話 金髪のマネキン人形」「第五十一話 住みたくない家」はなにかありそうでなにがあるのかわからないモヤモヤ感が気持ち悪い。「第九十一話 失せもの探し」は怪談を聞き終えた作者のラスト一行が後味をより悪くさせる。シリーズの中でも“怖い”とはまた別の厭な感じにあふれた1冊。
★★★(3.0)