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心の伏魔殿に鬼が棲む! 魔に魅入られた人々の救いがたき末路-『拝み屋怪談 鬼神の岩戸』

『拝み屋怪談 鬼神の岩戸』

郷内心瞳/2018年/288ページ

都内で起こった幽霊騒動。女性霊能師に解決を要請された現役拝み屋の著者は、自身の過去を見つめざるを得ない状況にすげなく断ってしまう。しかし、現地で現れ続けているという紫色のワンピースを着た女が、宮城にある自宅にまで出現するに至って重い腰を上げ、解決に動く。原因があるとされる地下室の扉を開けようとしたが、そこには残酷でおぞましい現実が広がっていて―。取材をもとにした怪異譚も収録。震撼の実話怪談!

(「BOOK」データベースより)

 

 今回は「魅入られた人々」にまつわる実話怪談。前巻のラストで己の過去との決別を果たした著者だったが、失意のうちに酒に溺れる毎日を送っていた。その一方でなぜか拝み屋としての勘は冴えに冴え、これまで以上に仕事が舞い込むようになる。そんな中、自分が霊能者であることを隠して依頼してきた女・小橋美琴がいた。美琴は「とある商店街の一角でたびたび目撃される、生霊らしき紫色のワンピースの女」の正体について助言が欲しいのだという。憮然とした態度で断る著者だったが、後日、自宅に現れた「紫色のワンピースの女」自身から真相を知ってしまう。美琴と共に、ニート息子が引きこもる地下室、その岩戸の向こうに待つものとは…。

 著者が終始飲んだくれて荒れているため、「面白半分で霊感スポットへ行き祟られるバカども」へに対してアタリが強く、ずっとイライラしている。実話怪談の語り手にあるまじきやさぐれっぷりである。単発エピソードの怪談を語りつつ、芯となる「紫色のワンピースの女」にまつわるエピソードが進行していき、ラストにその真相が明かされるというスタイルはシリーズおなじみのものだが、今回は比較的ひねりが少ないシンプルな構成である(ちょっと物足りなくもあるが、このトリッキーな構成を突き詰めていくと難解さが再現なくエスカレートしそうだ)。これまた恒例の自己陶酔的なまでの著者のやさぐれっぷりは好みが分かれそうだが、メインとなる話もその他の怪談も読みやすく、かつエグいので読みごたえは抜群。

 話のキモとなるのはタルパ、要はイマジナリーフレンドが実体を持って暴走した存在なのだが、幽霊はすなわちタルパではないかという指摘は面白かった。1作目から言及されてきたこのテーマ、わりと根本的な部分に触れていたのかもしれない。

★★★☆(3.5)

 

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