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得体の知れない存在が潜む蔵で始まる‟ひとり百物語”。シリーズを補完するボーナストラック-『拝み屋怪談 幽魂の蔵』

『拝み屋怪談 幽魂の蔵』

郷内心瞳/2020年/288ページ

不穏な漆黒に支配された闇の中、私は心の中で孤独な怪談語りを始めたー。古い母屋を改築した歪な蔵に現れるという“得体の知れないお化け”。お祓いと原因究明を依頼された拝み屋である著者は、「蔵の怪」をおびき寄せるため、自らが体験し見聞きした怪しい話の数々をたどることにした。刻一刻と時間が経過する中、やがて怪異の体験者にはある共通点があることに気づく。ドラマ化もされた人気怪談実話シリーズ、真の完結!

(「BOOK」データベースより)

 

 前巻『拝み屋怪談 壊れた母様の家〈陽〉』でひとまず完結した「拝み屋怪談」だが、本作はお蔵出しのボーナストラック的な巻となっている。シリーズ読者にはなじみの深い「ほのか」さん一家の親族宅で、中学2年生の娘・柚子香が「蔵の中でお化けを見た」という。不思議なことに、柚子香の話を聞いた大叔父とその息子も「今の今まで忘れていたが、そう言えば自分も蔵でお化けを見たことがある」と証言したのだ。見る者と見ない者がはっきり分かれているこの怪異の正体は? 依頼を受けた著者は件の蔵の中で一晩を過ごすことに。なんらかの気配を感じた著者は怪異を呼び込むため、これまでに聞いた怪談・己で体験した怪談を思い出しつつ、頭の中でひとり百物語を始めるのであった。

 

 今までのシリーズ作に比べると素直な構成で、上記の「幽魂の蔵」を枠物語として、短い実話怪談を紹介していくというスタイル。少々小粒な話が目立つものの、「誰なのか」「だから誰?」に登場する割烹着のおばさん、「E.T.」に出てくる想像したくない怪異、「第一印象」で描かれる小田イ輔氏のビジュアルなど、インパクトを残す話も少なくない。ラストで明かされる「蔵のお化け」の正体と、本書を、そして本シリーズを〆る結末は穏やかさに満ちた気持ちの良いものとなっている。波乱万丈の「拝み屋怪談」を追い続けてきた読者への贈り物のような一冊。ただやはり、いきなり本書から読むとところどころついていけない部分もありそうではある。

★★★(3.0)

 

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