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厨二妄想の少女が実体化! 実話怪談の域を超えた「拝み屋怪談」としか言い表せない一編-『拝み屋怪談 来たるべき災禍』

『拝み屋怪談 来たるべき災禍』

郷内心瞳/2017年/352ページ

虚実の境が見えなくなってしまった時、人にとってあらゆるものが、怪異となり得る危険を孕んでしまう―。現役拝み屋が体験した現世のこととも悪夢とも知れない恐るべき怪異。すべては20年以上前、ある日曜日の昼下がりに一人の少女に出逢ったことから始まった。その少女、14歳の桐島加奈江は果たして天使か怪物か、それとも…!?訪れた災禍を前に恐れ慄く一方で、必死に解決を図ろうとする拝み屋の衝撃実話怪談!

(「BOOK」データベースより)

 

 シリーズに何度も登場してきた怪異「霧島加奈江」との決着が語られる巻。霧島加奈江とは著者が少年時代、夢の中でのみ存在していた少女で、毎日のように夢に現れては親しく語り合ったのだという。だが夢の存在であったはずの加奈江は、いつしか実世界に現れるようになる。この世のものとも思えない凄まじい笑みを浮かべ、腰を抜かしている著者に向かって「しにぞこない」と囁く加奈江…。正直な話、過去のシリーズでもこの霧島加奈江に関するエピソードは少々浮いていて、そもそもが他人が観測できない著者の夢の中というあやふやな出自であるし、見た目が中学生の美少女なのでイマイチ怖くないのである。見方によってはむしろファンタジーじみた出来事ではないか。著者はいったい何を怖がっているのか。

 などと読者がいぶかしげに思い始めたあたりで、著者も「こんなものは幻覚、頭の歪みが生み出したに過ぎない」「少年時の夢も明晰夢だったのだろう」「加奈江もただの妄想だったのだ」と結論づける(何ともうまいタイミングである)。自分自身が信じられなくなりつつある著者の前に、再び姿を現す加奈江。「妄想なら消えろ」と念じる著者だが、加奈江は実体をもって掴みかかってきた…。

 

 シリーズの中でも特に「実話怪談」とはまた別のジャンルの物語のような気はするが、大筋となる物語の他にも細かな怪談エピソードはあるし、拝み屋と霊媒師の違い、精神病と霊障についての見解といった本シリーズの「世界観」の構築にまつわる章もあり、ナルシスティックなまでにドラマチックな物語に説得力を持たせてしまう筆力には相変わらず感嘆する。これはもう「拝み屋怪談」というジャンルなのだろう。

★★★☆(3.5)

 

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