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ノスタルジックでしっかり怖い、霊感少年と兄たちのショートショート連作-『響野怪談』

『響野(ひびきの)怪談』

織守きょうや/2019年/256ページ

響野家の末っ子・春希は怖がりなのに霊感が強く、ヒトではないものたちを呼び寄せてしまう。留守番中を狙ったようにかかってくる電話。何度捨てても家の前に現れるスニーカー。山小屋で出会った少女が寝言を聞かれるのを嫌がる理由…。些細だった怪異は徐々にエスカレートし、春希だけでなく、彼を守ろうとする父や兄たちをもおびやかしていく。『記憶屋』著者が日常と異界の狭間へと誘う、ノスタルジック・ホラー!

(「BOOK」データベースより)

 

 霊感持ちで怖がり、かつ無防備でお人好しな春希の主観で描かれる連作短編集。バスケ部で社交的な夏生、読書好きでマイペースな秋也、霊感でたびたび春希を助ける冬理、オカルト雑誌でライターをしている父。男所帯の響野家の面々の周囲で起こる、ささやかな怪異が実話怪談チックに語られていく。

 深夜の学校にひとり取り残される悪夢、脈絡のない寝言を聞いてぞっとした記憶、家族が見知らぬ誰かに見えた瞬間…。誰もが体験したことがあるような(あるいは、体験したという記憶を植え付けられていそうな)、記憶の奥底をくすぐられるノスタルジックな怪談が多い。どこかほのぼのとしていると同時にしっかり怖い、なかなか稀有な作風である。春希というよりは響野家そのものの周囲で見え隠れする「何か」も不気味だが、読み進めているうちに気づく、響野家のとある人物に対しての違和感も不穏さを強調するのに一役買っている。中盤ではその違和感の正体が書かれるが、はっきりとした答えは出なかったりする。

 響野家の面々はこの1冊で終わらせるのがもったいないほどキャラクターが立っており、後半からは頼もしいガーディアン的な存在も登場する。ところどころにぎやかな雰囲気もなくはないが、ラストはしっかり怪談で〆てくれるのがまた憎い。

★★★☆(3.5)

 

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