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超能力はおろか「黄泉の国」まで実在する世界観を、勢いだけで押し通した怪作刑事ドラマ-『ケイゾク/Beautiful Dreamer 完全版』

『ケイゾク/Beautiful Dreamer 完全版』

西荻弓絵(ノベライズ:橋爪敬子)/2002年/200ページ

迷宮入り事件ケイゾク調査の専門部署「警視庁捜査一課弐係」に、あの天才女性キャリア・柴田純が係長になって還ってきた!十五年前の海難事故の生存者たちが“厄神島”で次々と殺されていく。黄泉の国に続くという孤島で柴田と真山が見たものは…?弐係最後の事件は、柴田の心の闇を照らし出してゆく…。幻の「ケイゾク/シーズン弐企画書」も完全収録!日本中を席巻した怪作『ケイゾク』の文庫、待望の第二弾。

(「BOOK」データベースより)

 

 15年前の海難事故の生存者たちが、小笠原諸島の最南端・厄神島のホテルでパーティを開く。柴田と真山もホテルに滞在するが、1人また1人と客が殺されていく。海難事故の犠牲者の娘・霧島七海が、両親を見捨てて救命ボートで脱出した連中に復讐を開始したのだ。黄泉の国への入口が開いているという厄神島では、様々なものが消えるという。転落死したはずの死体が消え、客室がまるごと1つ消え、柴田のパンツが消え…。島に隠された秘密とはいったい何か。そして柴田と真山の前に姿を現した宿敵・朝倉の目的とは…。

 

 『ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer』のノベライズ。『ケイゾク/シーズン壱』の最終回で死んだはずの柴田、彩、壺坂が普通に生きているのでまず面食らうが、パラレルワールドとかではない模様。銃弾がプラスチック弾だったので助かった、とかそういう理由らしい。強引である。映画公開時はサブタイトル(『うる星やつら』劇場版のオマージュ)を深読みして「すべて瀕死の柴田が見ている夢」だという解釈もあったのだとか。 

 しょうもないギャグが連発される妙なテンション、あまりに強引過ぎるホテルのトリック(いくらなんでも地形だの風景だのの違いで気づくはず)にも閉口するが、ホテルの事件が解決して以降はもうムチャクチャである。もはや超能力にも近い朝倉の変装…は実際に超能力なのでいいとして(それにしたって説明不足だが)、厄神島には本当に「黄泉への入口」があり、死者との対話や再会も可能というファンタジーに足を突っ込んだ展開には度肝を抜かれる。死者のパワーを得て朝倉を倒すラストバトルはまだいいほうで、唐突に死亡する彩や不可解が過ぎる壺坂と班目の対峙シーンなどは完全に理解不能。こちらの考察不足なのか、何らかの情報不足なのか、作り手が何も考えていないのか、それすらもわからない。たぶん映画を観てもわからないと思う。このノベライズ自体は映画になかった描写やシーンも補完されているのだが(壺坂がゲイと再婚していた、等)、そのうえで理解できないのでもういいです。映画の時点で難解だったのが、監督の映像センスに浸れないノベライズではシナリオの弱点だけが浮き彫りになったという印象。

 巻末には「ケイゾク/シーズン弐」の企画書が掲載されているが、なかなかセンシティブというかデリケートというか、危うい内容である。実現しなかったのも納得。

★★(2.0)

 

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