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キワモノ揃いの超能力捜査班の活躍を上回る、スーパー総理大臣無双!-『ミステリオ 警視庁超常犯罪捜査班 File#1』

『ミステリオ 警視庁超常犯罪捜査班 File#1』

吉村達也/2011年/304ページ

厳戒態勢の首相官邸で、史上初の殺人事件が発生した。被害者はなんと官房長官!犯行予告をしたのは、眼球を失った女性が死体で見つかる連続猟奇事件の犯人。なぜ双方の事件がつながるのか。侵入方法も殺害手段も不明という状況を打開するため、若き総理大臣は特殊能力者4名で編成する超常犯罪捜査班「チームクワトロ」を投入。だが悪魔は、つぎに一般市民を標的にした同時多発・無差別攻撃を仕掛けてきた。

(「BOOK」データベースより)

 

 誘拐された女性が、眼球をくり抜かれた死体となって発見される事件が立て続けに起きる。「ミステリオ」を名乗る誘拐犯は、10日以内に首相官邸内での殺人が起きると予告する。そして、官房長官が官邸内で自らの耳にボールペンを刺して自殺するという事態が発生。官房長官の死はミステリオによるものだと直感した一ノ瀬総理大臣は、4人の特殊能力者で結成された超常犯罪捜査班「チームクワトロ」を招集するのであった。

 

 超能力者チームが超常的な犯罪に立ち向かうという話だが、このチームクワトロのキワモノ感が凄い。高校で英語を担当する美人教師にして、目にしたものをすべて記憶できる能力の持ち主・水無瀬葵。動物園で人気の超イケメン飼育員で、動物と会話できる柴田倫太郎。21歳の人気カリスマモデルで、あらゆる声色を使い分けるとともに、過去に発せられた声すら聞き分けることができる安西アンナ。手を握ることで相手の過去をすべて読み取れる最強の辻占い師でありながら、山の手線の内側では能力を失い、性格もチャラくなってしまう69歳・金子白雲斎。いろいろと盛りすぎなうえに能力も便利過ぎではなかろうか。

 で、本編を読むとこのチームクワトロの活躍が非常に少ない。終始話の中心にいるのは若き有能熱血総理・一ノ瀬で、ミステリオによる災禍が日本中で発生する緊急事態においても「愛の大切さ」を日本国民に説く大演説をぶち、エピローグでも黒幕のスパイを愛の力で救うことを国民に約束。ミステリオの黒幕たる脳科学者・萬堂と部下のハルも自らの目的やミステリオの謎などを随時ペラペラと語ってくれるので、チームクワトロが事件を解き明かしているという気がしない。ついでに言うと、黒幕がテロ事件を起こしたきっかけは「女にフラれたから」というしょうもないものである。

 超能力者の活躍や、ミステリ風の警察小説を期待する向きにはあまりオススメできないが、グロテスクかつそれなりに説得力のあるミステリオの正体、『忍者と極道』『ムダヅモ無き改革』に匹敵する総理無双自体はけっこう楽しんで読める。

★★★(3.0)

 

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