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シン超人VS怪獣の死闘で人間たちが肉塊と化す! 前代未聞のハードSF特撮スプラッター-『ΑΩ 超空想科学怪奇譚』

『ΑΩ 超空想科学怪奇譚』

小林泰三/2004年(復刊:2023年)/463ページ

大怪獣とヒーローが、 この世を地獄に変える。

旅客機の墜落事故が発生。
凄惨な事故に生存者は皆無だったが、諸星隼人は一本の腕から再生し蘇った。
奇妙な復活劇の後、異様な事件が隼人の周りで起き始める。
謎の新興宗教「アルファ・オメガ」の台頭、破壊の限りを尽くす大怪獣の出現。
そして巨大な「超人」への変身――宇宙生命体“ガ”によって生まれ変わり人類を救う戦いに身を投じた隼人が直面したのは、血肉にまみれた地獄だった。
科学的見地から描き抜かれた、超SFハード・バトルアクション。

(Amazon解説文より)

 

 「超人」「怪獣」という要素や主人公の名前(『ウルトラセブン』の主人公はモロボシ、『ウルトラマン』の主人公はハヤタという)から分かる通り、『ウルトラマン』シリーズを下敷きにしたハードSF&グロテスクホラー&バトルアクションである。人間とはまったく異質の「一族」の生命体・「ガ」が、脅威的存在「影」を破壊ため地球に降り立つ。「ガ」は地球での活動を可能にするため地球人である諸星隼人と同一化し、ピンチの際は超人の姿に変身して戦うのだ。

 本作がただのウルトラマンパロディに終わっていないのは、まずハードSFとしての設定の作り込みにある。第一部はまるまる「ガ」とその一族について描かれており、データ自体をアイデンティティとするプラズマ生物である彼らの生態が明らかになる(ついでに「ガ」が地球のような辺境惑星に飛ばされざるを得ないポンコツであることも判明する)。もう1つは圧倒的なグロテスク描写であり、「影」は当然ながら「ガ」も人間の命というものに対してだいぶ無頓着なため、彼らの戦いの陰ではとんでもない数の死人が発生する。首はもげる手足はすっ飛ぶ腸ははみ出るの大サービス。『シン・ウルトラマン』ばりの超越存在が『ウルトラマンネクサス』ばりに気持ち悪い怪獣と『ウルトラマンブレーザー』ばりにワイルドに戦い、『ガメラ3』以上の大惨事が発生するのである。面白くないわけがない。第三部では怪獣モノっぽさはちょっと薄れて「人間もどき」なる連中が跋扈する地獄絵図が展開され、第四部ではいかにもな最終回っぽい締めが待っている。ラストの一行、あなたはどう解釈するだろうか。

 『AΩ』は第22回日本SF大賞の選評で中島梓(栗本薫)からボロクソに批難されたことも一部で有名だが、これは中島梓が無意味なグロテスク描写を嫌っていたからでもある。実際、本書はここまでのグロ描写が無くとも「ウルトラマン」を新解釈したSF作品として成立しそうではあるが、それまでの過程が地獄絵図であるからこそあの美しいラストが印象的なのだとも言えるだろう。

★★★★★(5.0)

 

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