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グロテスクで懐かしい奇妙な町。SFとユーモアと怪獣に満ちた傑作-『人面町四丁目』

『人面町四丁目』

北野勇作/2004年/245ページ

大災害に被災し、行き場を失った男が遺体安置所で出会った不思議な女――。いっしょに来る? その言葉に導かれ、女の故郷人面町で、いつしかともに暮らし始めた男が出会うこの世のものとは思えぬ異形のものたち。そして、曖昧な記憶の糸をたぐりよせ、男がたどりついた、哀しくも酷いあの日の事実とは!? 日常のすぐそばで、ひたひたと迫る恐怖を描く逸品。

(Amazon紹介文より)

 

 かつて“人面工場”で栄えたという町で暮らすホラー作家の、怪異に満ちた日常を描く連作短編集。一編一編のつながりは薄く、最後にすべての謎がスッキリ解決! みたいな話ではない(ミステリっぽい上の解説文はあまり芯を食ってない)。
 ノスタルジックな風景が少しずつ主人公のアイデンティティを侵食していく様は確かにホラーであり、グロテスクな描写も多いが、とぼけたユーモアと奇想に満ちた不思議な作品でもある。角川ホラー文庫の中でも唯一無二の味わいを持つ傑作だ。

 「そもそも人面工場って何なんだよ?」に始まり、この町では奇妙なことばかり起きている。中年男性の顔をした人面魚、身長1メートル75センチのバイオ鶏、巨大顔面、巨大土竜、人面ザリガニ、亀型ロボット(レプリカメ)…。怪異と怪人と怪獣が当たり前のように闊歩しているとんでもない町だが、主人公の視点を通すとそれらも不思議と“日常”のひとつになってしまう。売れないホラー小説を書いて毎日を過ごしつつ、とんでもないモノに出くわしてもわりかし飄々としている主人公。彼には尋常ではない出自の秘密があるのだが、前述の通りそれが物語のドンデン返しというわけではない。その秘密ですら日常の一風景に溶け込んでいる。本当の主人公はこの奇妙な町そのものなのかもしれない。

 巨大土竜が大暴れするシーンは完全に『ウルトラQ』であり、怪獣小説としても一級。本作の続編『大怪獣記 (クトゥルー・ミュトス・ファイルズ)』もタイトル通り怪獣が大暴れする話のようだ。

★★★★★(5.0)

 

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