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語り手をも飲み込む“百物語”の怪異。劇中の怪談も愉しいホラーアンソロジー-『闇夜に怪を語れば』

『闇夜に怪を語れば 百物語ホラー傑作選』

東雅夫(編)/2005年/340ページ

月のない晩、一堂に会した人々が百筋の灯心に火をともし、怪異を語り合っては、一話ごとに灯心を一筋ずつ消してゆく。やがて百話満了した真闇のただなかで、必ずや怪しい出来事が起こるという…。江戸から続く「百物語」怪談会の伝統と恐怖を今に伝える、小説、エッセイ、詩歌から評論まで、多彩な作品を精選収録。時の流れに磨きぬかれたホラー・ジャパネスク=究極の怪談をお楽しみあれ。

(「BOOK」データベースより)

 

 京極夏彦&東雅夫の対談「新説『百物語』談義」で幕を開け、小説のみならず多彩な「百物語」ホラーを収録している。

 遠藤周作「蜘蛛」は付き合いでつまらぬ怪談会に出席することになった作家が、その帰り道で遭遇する怪異を描く。小酒井不木「暴風雨(あらし)の夜」は、怪談会でとある医師が語る猟奇的な事件とその真相についての話。やや強引な展開と凄惨な現場がいかにも探偵小説っぽい。泉鏡花「露萩」と森鴎外「百物語」は、どちらも当時の百物語の雰囲気を知るという意味でも興味深い作品。怪談だけでなくお化け屋敷的な趣向も加えられるのが普通だったのだろうか。「露萩」で主人公が語る“たいせつな先生”は尾崎紅葉がモデルと思われ、その後の塔婆にまつわる話も実話を基にしているのかもしれない。森銑三「森鴎外の『百物語』」は、同短編をより深く知るためのテキストである。

 水野葉舟「怪談会」、畑耕一「怪談」、福澤徹三「怪談」はいずれも劇中で語られる多彩な怪談自体が楽しい。水野葉舟のものは物語としての一捻りを入れたりはせず、本当にただの怪談会である。杉浦日向子「怪談」は百物語のやり方を説明するエッセイ。仙波龍英「百物語」は、百物語を題材にした短歌14本。

 岡本綺堂「百物語」、都築道夫「百物語」、高橋克彦「百物語」、阿刀田高「百物語」と同名作品が続いてややこしいが、いずれも作者の持ち味を生かしたキレのいい短編。言ってしまえば「百物語に参加者がラストで本物の怪異に巻き込まれる」という同じ筋なのだが、怪奇短編の名手たちだけあって読み応えがある。花田清輝「百物語」は、葛飾北斎の連作「百物語」についての評論。

 倉阪鬼一郎「百物語異聞」は本書の中ではもっともぶっ飛んだ一作で、「百物語を百回やろう」という思い付きを実行した連中が辿る奇妙な運命。怪異を語るものが怪異に飲み込まれていくという意味でも、本書のテーマにもっとも寄り添った作品かもしれない。『現代百物語』シリーズを書いた岩井志麻子の「岡山は毎晩が百物語」もじつにこの作者らしい、日常に潜む“厭”な瞬間を切り取った好短編。若竹七海「贈り物」、村上春樹「鏡」は百物語参加者の実体験というていで語られる、ある意味ベーシックなスタイルの怪談。ラストには解説に代えて東雅夫によるレビュー「百物語という呪い」が収録されている。

 一読して忘れがたい強烈な傑作…とまで言い切れるのは倉阪鬼一郎くらいであったが、遠藤周作、畑耕一、都築道夫、若竹七海など自分好みの作品も多かった。バラエティに富んだ構成に百物語並のじゅうぶんなボリュームを感じるアンソロジーである。

★★★☆(3.5)

 

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