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歪んだ渇望が友情を裂く。一気読みの果てに待つのは唯一無二のほろ苦い幕切れ-『女友達』

『女友達』

新津きよみ/1996年/440ページ

29歳独身、一人暮らしで特定の恋人は無し。満たされぬ毎日を送っていた千鶴は、ふとしたきっかけから隣人・亮子と知り合った。同い年だが自分より容姿も収入も劣っている亮子との友情に、屈折した安らぎを見出す千鶴。ファッションや持ち物の比較、相手の幸せへの嫉妬、虚栄心を満たすための小さな嘘―女友達の間にはありがちな些細な出来事が積み重なった時、ふたりの間に生まれた惨劇とは?女性心理の奥底を緻密に描く、長編サスペンス・ホラー。

(「BOOK」データベースより)

 

 インテリア・コーディネーターの千鶴は、自分が粗大ゴミに捨てたチェスト(元カレの贈り物)をもの欲しそうに見つめている亮子と出会う。亮子にチェストを譲った千鶴は彼女と親しくなり、どこか野暮ったくつつましい暮らしをしている亮子に内心ではマウントを取っている自分に嫌悪感を抱きつつも、友人として親交を深めていく。しかし、亮子の言動にはどこか不審なところがあり…。
 千鶴はすさまじく見栄っ張りな一方で愚かなまでにお人好しであり、主人公としてはあまり感心できない人物。一方で亮子のほうは見た目は控えめながら巨乳の持ち主、料理の腕前は一流、手先が器用でパッチワークや編み物が得意というプロフィールの持ち主ながら、第一印象の良さとは裏腹に「あれ?」と目を疑うような行動が少しずつ増えてくる。そしてとある殺人事件を追う刑事たちが登場し、千鶴の元カレ・吉川が亮子と接触する辺りから物語は二転三転しつつ加速していく。女同士の友情の芽生えとその崩壊をじっくり描く…というような悠長なことはせず、序盤から不穏な火種をバラ撒きつつラストに向けて一気に収束していく構成の巧さは素晴らしい。読み始める前は「ああ、あらすじだけでだいたい内容理解したわ」などと若干侮っていたのだが、一気に引き込まれて通読してしまった。
 この手のサイコ系のサスペンスだと、ラストは「事態はいったん解決したように見せて、実は…」のパターンか、あるいは何の救いもないバッドエンドで終わるのがが9割くらいな印象があるが、本書はそのどちらでもない。苦い現実と物悲しさが残る、味わい深いエンディングだ。
 『女友達』で描かれている恐怖は「女の嫉妬ってこわ~いw」という表面的なものだけではなく、親友や恋人がいてもなお消えぬ孤独感、自分の手で人間関係を壊してしまうことへの不安といった普遍的かつ深層的なものに思える。親友や恋人は孤独を癒してくれる特効薬ではないし、そうした過度な期待がディスコミュニケーションを生む様が克明な筆致で描かれているのだ。

★★★★★(5.0)

 

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