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不条理話に感動の結末を付けて精神的グロさが増した珍作-『恐怖の報酬』

『恐怖の報酬』

赤川次郎/2004年/311ページ

会社で、家庭で、学校で。小さな出来事をきっかけにおこる恐怖を描く作品集

昭子は庶務課に勤務するOL。伝票のミスで大切な来客の駐車場を予約しそこなったことから、恐怖の体験が始まった!日常の些細な出来事をきっかけにおこる恐怖を描いた、ホラー短編集。

望みをかなえるための代償、それは身も凍る出来事の数々―
たった一台分の駐車場を確保するために、恐怖の体験をするOL・昭子。課長の執拗な嫌がらせを受けるサラリーマン・柳井。元刑事の父を持つ大学生・友子。アイドルと共に強盗の人質になった銀行員・明美。 それぞれが望んだことは、けっして大それたことではなかった。だが何かを手にいれるためには、代償が必要なのだ―。 日常の些細な出来事が、戦慄の事件に変わる様を描いた、傑作ホラー短篇集!!

(Amazon解説文より)

 

 時たまオカルト要素が混じるサスペンス短編集。各話に繋がりはなく、言うほど「恐怖の報酬」というテーマでもない気がする。フリードキンの映画とも関係ない。

 

 「神の救いの手」-上司に頼まれていたビルの駐車場の予約を取り損ねて以降、なぜか次々と不幸に襲われる昭子。結婚式を控えていた友人が恋人と共に事故死、父親は定年前退職を苦にして自殺、昭子自身も駐車場の管理人に裸体写真を撮られ脅迫される始末。そんな彼女の味方は先輩社員の三橋しかいなかったが…。あまりにもテンポの良すぎる不幸のつるべ打ちはそうはならんやろと言いたくなるほどで、こういう展開はさすが赤川次郎だなと思う。

 「使い走り」-窓際族のサラリーマン・柳川は年下の寺岡課長にいびられ続けていた。40度を越えるであろう猛暑の日々にも、ファックスで送れば済むような書類を片道3時間の工場まで、毎日のように柳井に届けさせる始末。心臓を病んでいた柳井は、使い走りの途中で倒れて死んでしまう。さすがに課内の人間からも非難の目を向けられるようになった寺岡は苛立ちを隠せないでいた。そんな折、太陽も出ていない曇り空の屋外で、寺岡のひとり息子が日射病で倒れるという奇妙な出来事が起きる。息子は「工場に資料を届けなきゃ」とうわごとを発していた…。よくある因果応報の呪いかと思いきや、死ななくてもよかったような登場人物までをも巻き込んで被害が拡大していく不条理な話。ラスト、なんだかいい雰囲気でまとめようとしているのが逆に怖い。

 「最後の願い」-鬼刑事の桐生は、女のアパートから逃げ出した凶悪犯・会田に発砲する。死にゆく会田の「娘をこの腕に抱かせてくれ」という願いを叶えてやった桐生に対し、「きっと恩返しはする」と言い残して会田は息絶えた。そして15年後、桐生は刑事を辞め、警備会社の副社長として裕福に暮らしていた。ある日、桐生の娘・友子が暴漢たちに襲われるが、突如現れた謎の人物が暴漢たちを返り討ちにし、「親父さんには恩がある」と友子に告げる。その頃、桐生は会田のかつての妻と娘がホームレス同然の暮らしをしていることを知り、彼女らを援助するのだが…。「幽霊の恩返し」という一言で説明できるはずの話がなぜかこじれにこじれ、傷つかなくてもよかったような人が傷つき、死人も出てしまうというスッキリしない話。まあ恩返しとはいえ凶悪殺人犯のすることだからなあ…。

 「人質の歌」-都心のとある銀行で営業イベントに来たアイドル。かつてアイドルの家庭教師をしていた銀行員。借金で首が回らなくなっているもうひとりの銀行員。死んだ娘の幻影に囚われ続けている男。イベントの終了後に散弾銃を手にした強盗が彼らを人質に取るも、銀行はあっという間に警察に包囲されてしまう。銀行員らは強盗に手を貸し、自分たちも大金を入手しつつここを脱出する秘策を練るが…。策謀が渦巻く中、娘を亡くしてヤケクソになってる男がカオスをさらに激化させ、無情なオチへと着地するやるせない話。

 

 安易な勧善懲悪に留まらない…というか、登場人物らの好きにさせた結果、世の中の不条理をそのまま映し出すかのような夢も希望もないオチになってしまったという印象。2話目と3話目は後味の悪さをムリヤリ感動話で終わらせようとして失敗し、おそらく作者の意図しない方向でグロテスクになってしまっている。オススメできるようなできないような、何とも言えない珍作。

★★★(3.0)

 

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