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青春、河童、人体実験、「妖蛆の秘密」をごった煮に。タイトル詐欺なコズミックホラー-『幽霊屋敷』

『幽霊屋敷』

友成純一/1995年/297ページ

現代においてなお、河童の目撃例が後をたたない熊本・国見村。東京から越してきた正樹は、初めて暮らす大自然を探索中、村外れに巨大な洋館を発見した。不気味な佇まいに興味を覚えた正樹は、村人に由来を尋ねるが、何故か皆口篭る。一体この屋敷には何が隠されているのか。そこへ、ある一家が入居してきた。その直後から村では不思議な出来事が…。恐怖小説の名手が綴る書下し長編ホラー。

(「BOOK」データベースより)

 「幽霊屋敷」という、正統派ゴシックホラーを思わせるタイトル。そして著者が鬼畜ホラーの名手・友成純一。さてどんな内容かと読み始めると…。幽霊とはまったく別の性質の怪異が跋扈する本書に『幽霊屋敷』とつけるのは、ある意味タイトル詐欺かもしれない。

 序章の「熊本県の河童にまつわる伝承」に続き、非道な人体実験を行う科学者親子が登場するので「幽霊屋敷関係ねぇじゃん!」となる。序盤はいい感じで予想を裏切られつつ、田舎町で暮らすバカ高校生たちのジュブナイル小説的な雰囲気すらあるのだが、後半の展開はやや消化不良。村で噂される幽霊屋敷に引っ越してきたのが序盤で出てきたマッドサイエンティスト一家であることはすぐわかるのだが、彼らの人体実験の目的はあまりに荒唐無稽。序盤に「妖蛆の秘密」などという単語が出てくる時点で、わかる人にはわかる例のアレである。ラスト、すべての秘密が明かされて警官隊が屋敷を取り囲む場面などはもうちょっと盛り上がってもよかったと思うのだが、少々話の畳みかたが性急。壮大なマッド研究の産物がわりと小ぢんまりと解決してしまうし、作者お得意のグロ描写も少ないし、カタルシスに欠ける結末も含めてやや不満が残る。とは言え終盤までの雰囲気は悪くないし、前代未聞の“河童”にはいいモノ見させてもらった気分になる。

★★★(3.0)

 

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