角川ホラー文庫全部読む

全部読めるといいですね。おすすめ作品等はリストから

マイペースな妖鬼と魂が見える少年の愉しくもシビアな道中記-『魂追い』

『魂追い』

田辺青蛙/2009年/252ページ

県境を守る妖鬼の皐月は、森に漂う“生き物の魂魄”を捕らえることを生業とする“魂追い”の少年・縁と出会う。あるとき、魂魄が漂う“道”に入り込んでしまったことをきっかけに、皐月と相棒の馬・布団の体に変調が!?皐月は縁とともに、変異を食い止める力があるという妖虫・火喰い虫が棲む“火の山”をめざし旅立つことになるが…行く先々で待ち受ける怪異と事件、2人の旅路の行く末は―!?不思議な魅力の妖怪小説、再び。

(「BOOK」データベースより)

 

「魂魄の道」-生き物の魂魄を捕まえる魂追いの少年・縁は、自分と同じように魂魄を見ることができる妖鬼・皐月と出会う。魂追いの師匠でもある‟おじぃ”に、皐月から術を教えてもらうように言われた縁は皐月のもとへ通うようになるが、おじぃはほどなくして病死する。おじぃを追って「魂魄の道」へと迷い込んだ縁を助けるため、皐月は馬の‟布団”と共に魂魄の道へ向かう。

「鬼遣いの子」-縁を助ける過程で、普段とは異なる「気」を体内に取り込んでしまい変調をきたす皐月。火喰い虫に「気」を燃やしてもらうため、皐月は縁と共に火の山を目指す。旅の途中、縁が出会った少年・吉兵衛は鬼を使役する鬼遣いだった。縁の話を聞いた吉兵衛は皐月に興味を示し、彼女を捕らえて手駒にしてしまう…。

「落ち星」-路銀稼ぎのため、とある村で働くことにした皐月と縁。この村には神隠しを起こすという「落ちてきた星」が祀られていた。皐月たちが滞在している間にも、ふたりに親切にしてくれた蕎麦屋の店主が消え…。本書の中では異彩を放つミステリ仕立ての一編だが、非常に面白い。

「火の山のねねこ」-ようやく火の山に到着したふたり。皐月が火喰い虫による治療を受けている最中、縁は河童のねねこと共に火の山を散策していた。だが「落ち星」の一件に端を発する、ある存在が悲劇を巻き起こし…。目的を果たしたと思いきや、予想外に次ぐ予想外の展開。縁に科せられたあまりにも重い運命とは。

 

 前作『生き屏風』は作中に怪談が散りばめられた、妖の風変わりな日常モノという雰囲気だったが、今作は少年と知り合った皐月が「火の山」へと旅することになり、様々な出来事に遭遇しながら絆を深めていく…という冒険モノになっている。

 感情希薄に見えるほどマイペースながら芯の強い皐月、皐月を鈍くさく感じつつも無自覚にほのかな恋心を募らせていく少年・縁、小生意気ではあるが裏表がなく愛嬌たっぷりの河童の少女・ねねこといったキャラクターの愛おしさと可愛らしさが素晴らしい。その一方で彼らを見舞うシチュエーションはしばしば残酷極まりなく、ゆるふわな妖怪ラノベであると同時にホラー小説としての矜持もしっかりと感じられる作り。現世とは異なる理で成り立っている、「妖の世界観」がかっちりと確立されているからこそだろう。

 解説は恒川光太郎。風変わりで非常に魅力的でありつつも、時に残酷さを剝き出しにする――。本作のシビアながらも読者を惹きつけてやまない世界観は、確かに恒川光太郎を思わせる点がある。

★★★★★(5.0)

 

◆Amazonで『魂追い』を見る(リンク)◆

www.amazon.co.jp