『妖琦庵夜話 グッドナイトベイビー』
榎田ユウリ/2016年/352ページ
茶室・妖琦庵の主は、隻眼にして美貌の洗足伊織。ヒトと僅かに違うDNAを持つ妖人だ。家令の夷、家事手伝いのマメと共に静かに暮らしていたが、“鬼”の属性を持つ青目にマメが襲われて以来、危機感を強めていた。そんな折、妖琦庵を訪れた“貘”から「妖人というだけで差別され、妻子が苦しんでいる」と相談を受ける。一方、子供のように無垢なマメには、過去からの脅威が近づき…。大人気シリーズ第5弾、文庫書き下ろし。
(「BOOK」データベースより)
妖人の存在が明らかになって以降、妖人に対する差別も一部で広がりつつあった。《獏》の妖人・柳沼から妻と子が町内や学校で陰湿な苛めを受けていると相談された伊織は、とある奇策と自らの右目の力で差別を主導していた者の「正体」を看破する。
一方、前回の事件で《悪鬼》青目甲斐児に攫われかけた《小豆とぎ》のマメは、《犬神》の甲藤に護身術を習っていた。親交を深める2人だったが、甲藤はマメが柄の悪い妖人たちと共に、人間を痛めつけている様を見てしまう。何よりも暴力を嫌い、心優しかったはずのマメが何故? 伊織はこれまで誰にも語らずにいた、マメの過去と秘密を甲藤に明かすのだった…。
今回は推理要素がほとんどなく、レギュラー陣の少年・マメの真実に迫る巻となっている。ていうか表紙の子がマメ? 今まで、名前の雰囲気でマルコメ味噌のパッケージとかに載ってる小坊主を想像していたのだがこうも線の細い美少年だったとは…。
妖人が普通に暮らしている社会、という設定から避けては通れない「差別」の実態に踏み込みつつ、世界観を広げていく巻になっている。青目はすっかり“それも私だ”的なスーパー犯罪プロデューサーになっているが、ギリギリ納得できるレベルの手回しの良さに落ち着いているので意外と出しゃばり感が無い。伊織と青目の過去についても前巻辺りからしばしば触れられており、いずれ来るであろう決戦、決別の日への仕込みもバッチリである。
★★★★(4.0)

