『わたしを呪ったアレ殺し』
堀井拓馬/2025年/352ページ
日本ホラー小説大賞出身の鬼才が放つ、異形蠢く戦慄の復讐譚!
自分だけに見えていたはずの怪物・蛞蝓女が
SNSで話題になっているのを知った大学生の芽衣。
粘液を垂れ流しながら追ってくる“アレ”に捕まればきっと死ぬ――
現実と向き合うため、芽衣は彼氏の恭一とともに呪いが生まれた故郷・沢母児町へ向かう。
先輩で研究者の雪丸千璃も加わり、“呪いを殺す方法”を探っていくが……。土地神の祟りの噂、不気味な町民たち。
町の禁忌に触れた時、想像を絶する地獄が始まる。
(Amazon解説文より)
大学生の宮間芽衣は、自分にだけ見える異形の存在・“アレ”が都市伝説の怪物《蛞蝓女》として話題になっていることを知る。11年前、芽衣は故郷・沢母児町の出目祭りでウルミと名乗る子と出会い、共に古い神社を訪れた。そこで何かが起き、芽衣は“アレ”につきまとわれることになったのだ。自分にだけ見えていた“アレ”が今になって、他の人間にも伝染しはじめているのだろうか? 芽衣は恋人の青井恭一とともに、あの日以来訪れたことのなかった沢母児へと向かう。
沢母児で旅館を営む父親の縁太郎、祖母のショーコと再会した芽衣。彼女の身に起きていることについて何か知っているそぶりを見せるショーコは、「芽衣には呪いがかけられている」「呪いを“殺し”て、沢母児を出なければならない」と語る。だが呪いを解く具体的な方法がわからないまま、ショーコは姿を消してしまう。芽衣は恭一、そして沢母児で再会した高校時代の先輩にして怪奇現象研究家の雪丸千璃とともに、彼女を呪った“アレ”を殺すための方法を探し始める。だが、芽衣はまだ気づいていなかった。沢母児に伝わる因習の恐ろしさと根深さに、そして彼女たちが陥っている絶望的な状況に…。
いわゆる「因習村」に「都市伝説の怪異」と、流行りの題材に乗っかった作品…などと思っていると、奥底に秘められた“熱”に焼き尽くされかねない傑作である。登場する怪異《蛞蝓女》は眼窩から生えた腕と切れ込みのような口を持ち、粘液をしたたらせる肉の巨塊という姿。このおぞましい怪異の正体は何なのか。沢母児に伝わる「メノテメ様」とはいかなる存在なのか。かつて町を救ったという霊能力者・沾水ネンとは何者か。謎がまた別の謎を呼び、沢母児という町自体の昏い秘密と、それに関わる人々の不気味さが明らかになっていく展開は安定の面白さだ。
そして最終章「呪い」では11年前に起きたすべての出来事の真実、芽衣の周りを取り巻いていた「呪い」の正体が判明する。明かされる正体、呪いの暴走と大パニックによるスペクタクルシーンはいかにもクライマックスといった感じで盛り上がるが、ここで描かれる感情の爆発――孤独、愛、哀しみといったあれこれは、一般的な「ホラー小説」で味わえるものとはまた別のものという印象を受ける。ワクワクと困惑がない交ぜになったような奇妙な読書体験だが、本作はここから、この終幕からさらに別のレイヤーの世界を見せてくれるのである。帯に書かれた「豹変系ホラーミステリ」という惹句はなかなか巧いと思う。単なるどんでん返しに終わらない、作品全体の印象すら一変させてしまうほどのパワーが最終章には秘められている。いやぁ面白かった。
★★★★★(5.0)

