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蝶が、蛇が、新しいお母さんが少女を追い詰めるこわ~い話-『こわい本5 執念』

『こわい本5 執念』

楳図かずお/2021年/384ページ

執念によって心理的に追い込まれていく少女の恐怖を描くミステリー

裕福な家に生まれたものの、母が亡くなり継母に育てられためぐみ。なぜか幼いころからずっと蝶が怖くて仕方なかった。父に連れられ母の墓参りのため別荘へ行くが、なぜがとても怖い。別荘は母が死にめぐみが産まれた場所だった。めぐみを嫌う祖母、そしてそこには壮絶な過去があった……心理的恐怖を描いた「蝶の墓」。田舎で暮らす小野さつきとかんなの姉妹が、おばあちゃんから村に伝わる民話的な奇妙な話を聞き、それが現実の事件につながっていく怪異譚の「ヘビおばさん」。楳図がかつて暮らした奈良県五條市や生まれ故郷の和歌山県高野町、幼少期を過ごした奈良県曽爾村などの風景と伝説が織り込まれた牧歌的要素の強い怪奇ファンタジー「山びこ姉妹」シリーズの第2弾。 ある日、おかねが渕で巨大なうわばみの姿となった女性にさつきとかんな姉妹が遭遇する。ある日、友人の家に遊びに行った二人は、友人の家に新しく迎えられた継母に会い……。【巻末特別企画】横尾忠則対談! 楳図かずお自身による作品解説&解題充実。書下ろしエッセイは清水崇監督!

(Amazon解説文より)

 

 「蝶の墓」-子供の頃に母を亡くしためぐみは、なぜか蝶を恐れていた。やがてめぐみの前に黒い蝶の幻影が現れるようになり、黒い蝶が取り憑かれた人はみな不幸な目に会ってしまう。父親の周りにも黒い蝶が舞っているのを見ためぐみは、父から再婚の話を聞かされ「新しいお母さんこそ、不吉な黒い蝶に違いない!」と怯えるが…。

 めぐみの蝶嫌いっぷりのエスカレートがすさまじく、完全にノイローゼにしか見えない。優しそうな新しいお母さんにも突っかかり、ついには精神病院に入れられてしまうめぐみの姿も「あんだけ暴れたら仕方ないのでは」という気分にすらなってしまう。この後めぐみの直感が正しかったことがわかり、信じてやれなくてスマンかったと父親と同じく反省することになるのだが。読者すらも味方になってくれないほどに追い詰められためぐみの境遇、これは相当に怖い。

 「ヘビおばさん」-新しいお母さんはヘビの化身だった! という、楳図マンガだけでも数回見た気がするパターンだが、ネタを明かしてしまうと「継子を怖がらせるためヘビのふりをしていた」というかえって斬新なオチである。

 

 本巻収録の2作は「心理ミステリ」と称されており、サブタイトル通りの執念、それも激しい恋愛感情にまつわる執着が事件のきっかけになっている。作者は「怨念」には恨みや祟りから生まれる感情という理由があるが、「執念」には相手のはっきりした理由が見えない。それが怖い…とあとがきで語っている。恋愛という理由があるじゃないかという気もするが、まあ確かに他人の命を奪ってまで実らせなければならない恋、というのは理解不能の妄執でしかない。ちなみに表紙の女の子、めちゃくちゃチョイ役だがいい表情である。

★★★(3.0)

 

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