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バラエティ豊かな学校ホラーシリーズに名作「ねがい」をプラス-『ゾク こわい本3 恐怖1』

『ゾク こわい本3 恐怖1』

楳図かずお/2025年/384ページ

楳図かずおの恐怖と妄想の世界へようこそ。

みやこ高校2年生のエミ子は学校新聞部の記者。好奇心旺盛で、いつも奇妙な事件に巻き込まれる――。降霊術をきっかけに女性の執念が甦る「800年のミイラ」。神社に奉納された鬼の面が悲劇を起こす「吸血面」。少女に移植された天才ピアニストの腕が暴走する「白い右手」など。少年の無垢な祈りが奇跡を起こす、楳図マンガの代表作「ねがい」も収録。日常に潜む歪んだ思いが引き起こす、鮮烈でグロテスクな恐怖のかたちに戦慄する。

(Amazon解説文より)

 

 みやこ高校の新聞部、新井エミ子と青木夏彦がさまざまな怪奇事件に挑む「高校生記者シリーズ」を収録した短篇集の第1巻。小学館版『恐怖』の上巻に、名作「ねがい」をプラスした構成となっている。

 

 「800年目のミイラ」-エミ子のクラスメイト・京子が面白半分で降霊術を試したところ、「私は静じゃ! 義経どのはどこじゃ」と叫びながら、ミイラのような姿でさまようようになる。夏彦を“義経どの”だと思い込んだ京子は刃物を持ってエミ子に迫るが、急に苦しみだして倒れてしまう…。この回のみ、エミ子が「テリー」というあだ名で呼ばれているが、なぜテリーなのか正直よくわからない。

 「悪魔の24時間」-ハンサムな化学教師・仁木先生が突然学校を辞めた。先生の家に行く途中、仁木の双子の弟を名乗る男性に出会ったエミ子は、(なぜか)その男性とデートすることに。彼は「ぼくは今日、はじめて生まれたのです」と語ったのち、いきなり悪魔のような姿に変貌する…! ホラーおなじみの「ジキルとハイド」テーマをひと捻り半した1作。秋田書店版の『恐怖』には未収録だったらしい。

 「雪女」-蔵王でスキーを楽しむ夏彦たちだったが、同行していた水島と加藤が遭難。奇跡的に水島だけが救出される。水島が退院するのと時を同じくして、小夜雪子という美しい転校生がやってくる…。タイトルまんまの内容だが、遭難した水島が昔話の「雪女」の話をまるまる40ページにわたって回想するため、はっきりいってテンポが変である。この昔話パートは、もともと「小学三年生」の別冊付録用に描かれていたものらしい。

 「吸血面」-節分の豆まきで、神社に祀られていた鬼の面をふざけて被ったところ、案の定取れなくなって大変だったとのことです。

 「コンドラの童話」-大好きな怪獣・コンドラの人形をいつも持っていた正くんが交通事故で死亡する。その後、町ではタクシーが巨大な何物かに襲われる事件が相次ぎ…。 交通事故死した少年のため、実体化した怪獣が車を襲うという筋立ては『ウルトラマン』の「恐怖のルート87」という回とほぼ同じだったりする。まあ楳図かずおも『ウルトラマン』描いてたしね。

 「孤独なヨット」-ヨット部の久美は恋敵の聖子を夜の海へと連れ出し、「あこがれの剛三さんに近づかないで」と訴えるがまるで相手にされない。口論中にヨットが転覆し、久美は聖子を見捨てて泳ぎ助かる。罪悪感に悩まされつつも、剛三を慕う気持ちを抑えられない久美。だがある嵐の夜、ヨットと共に海に沈んだはずの聖子が、久美の前へ姿を現す…。比較的オーソドックスな海洋怪談。

 「恐怖の館」-ピクニック中、雨に降られたエミ子と夏彦が立ち寄った洋館は、拷問大好きのキチガイ親父の住み処だった! さあどうなる!

 「イヌ神」-夏彦の友人・犬部が新聞部のために「先祖の本物のミイラが入った石棺」を見せてくれた。だが石棺から出た瘴気に取りつかれた犬部がイヌ神憑きになり、獰猛な牙で人々を襲い始めた! まったく救いがないうえ犬部くんが気の毒。

 「白い右手」-事故で右手を失った文子は、ピアニストの少女の右手を手術で移植することに。急にピアノがうまくなったと喜んだのもつかの間、右手が意志を持つかのように勝手に動きだし、文子を殺そうとする…! 

 「魔性の目」-高熱を出して失明した直美は、異形の老人に昆虫のような目玉をくっつけられる夢を見る。その日から視力が回復した直美だったが、人間の本質が醜い姿として見えるようになってしまう…。さながら楳図版『ゼイリブ』である。

 「枯れ木」-みやこ高校のグラウンド脇には、御神木と呼ばれている桜の枯れ木があった。枯れ木を切ろうとした先生が事故で大けがをしたのに続き、校長や生徒など、関係者が次々と災難に遭う。たたりなんかあるわけがないと主張するエミ子は、ある計画を思いつくが…。意外な展開と捻りの効いたオチがすばらしく、本シリーズの中ではもっとも完成度の高い1作だと思う。

 

 「ねがい」-孤独な少年がガラクタから作り上げた人形、「モクメ」。傍から見れば不気味きわまりないモクメも、少年にとっては大切な友だちだった。「モクメが人間のように動きますように」とねがい続ける少年だったが、転校生の少女と仲良くなったことをきっかけに、モクメのことをぞんざいに扱うようになり、ついには捨ててしまう。だが少年の「ねがい」は、すでに叶えられていた…! ホラーとジュブナイルが融合した、異色の成長物語。傑作である。

 

 やや展開がお約束な話が多い印象だが、正統派幽霊怪談に妖怪もの、サイコサスペンスにSFホラーとテーマが幅広いため楽しく読める。個人的にはやはり「枯れ木」、そして「ねがい」の2編がベスト。

★★★(3.0)

 

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