『こわい本8 異形2』
楳図かずお/2021年/352ページ
この肉体の変異は、もう誰にも止められない。
千年後には地球が海に覆われ、人類は魚の姿になり生き延びる――予言を裏付けるかのように、エラや鱗、水かきを持った姿に 変貌していく青年の姿に戦慄す る「半魚人」。死んだ愛児の脳を人造人間に移植された母が、怪物になった我が子と復讐を繰り広げる「ひびわれ人間」。動物実験を行う研究室を襲う怪異の正体を追う「ばけもの」ほか、「怪獣ギョー」「悪魔の手を持つ男」 の5篇。哀しい異形の者たちと、日常が一変する恐怖を描く 1 冊。
(Amazon解説文より)
「半魚人」-次郎少年のにいさんは身体に鱗やヒレが、口が裂け牙が生える奇病にかかってしまう。級友・健一くんの父親である博士によれば、遠い未来に海面が上昇し、地球が水浸しになることを察知した人類はどんどん魚に近づいているのだという。人類半魚人化説を知った次郎のにいさんは博士になりすまし、健一くんを半魚人にするための外科手術を施す…。イケメンな健一少年の顔面が切り裂かれ、魚のように改造されていく過程がなかなかにエグい。人体改造ホラーとしてはなかなかのもの。
「ひびわれ人間 楳図かずおのフランケン」-クレイジーな博士が死体をつぎはぎした人造人間に事故死した幼児の脳を入れるも、当然ながら暴走してしまうという話。見境なく暴れまわる怪物は実の父親も殺してしまうが、かろうじて生前の記憶が残っていたため母親の前ではおとなしくなった。母親は夫の弟たちと遺産相続をめぐる争いで拷問され、その恨みを果たすため怪物に復讐を命じる。頭脳は幼児でしかない怪物が、人殺しの道具として扱われる様はただただ哀れである。
「ばけもの」-動物実験を繰り返すとある医院で、おぞましい姿のばけものが目撃されるようになる…。異形の発生経緯には無数のパターンがあるが、本作のようなアイデアはなかなか目新しい。‟ばけもの”のB級ホラー映画に出てきそうなデザインも良い感じ。
「怪獣ギョー」-病弱な少年がこっそり飼っていた奇形魚・ギョー。入院することになった少年はギョーの世話を父に頼むが、そのあまりの醜さに驚いた大人たちは、ギョーを叩きのめして海に放り込んでしまう。そして数十年後、大方の予想通りギョーは巨大怪獣と化して帰ってきた…!! さすが『ウルトラマン』コミカライズ経験もある楳図かずお、ギョーはグロテスクな姿ながらも忠実な一面も持つ愛嬌があり、怪獣としてのツボを押さえている。
「悪魔の手を持つ男」-五郎のにいさんは食べ物が血にならない病気にかかってしまい(少年の兄、奇病にかかりがち)、日に日に衰えていってしまう。だが、にいさんの身体は血を得るためにある変異を起こし…。短い話ながら‟悪魔の手”のギミックが印象深く、まさに「異形」テーマにふさわしい。
読んでいてどんよりする話が多く、異形の持つ「哀しみ」に寄り添ったイイ巻である。巻末企画の寄稿は大槻ケンヂ。対談相手は吉田戦車というなかなか豪華な人選。対談にあたって『伝染るんです。』をしっかり読み込んでいる楳図先生がなんだか新鮮である。
★★★☆(3.5)