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比較的レアな珍品に加え、ドラマ・映画化もされた「蟲たちの家」等を収録-『ゾク こわい本2 奇跡』

『ゾク こわい本2 奇跡』

楳図かずお/2025年/384ページ

楳図かずお全巻監修の「ゾク こわい本」シリーズ。いよいよスタート!

山へ行ったきり帰ってこない夫を待ち続ける妻。お互いを信じ仲睦まじい2人の想いが時を経て運命の奇跡を呼ぶ「愛の奇蹟」。NASAの海王星ミッションに参加する息子は母にくわしいことを言えずに家を出た。そして訓練を経て10年後いよいよ宇宙へと旅立つのだが……究極の愛の形を描いた傑作と誉れ高き「霧の中へ」。恐怖と笑いの境界を描いたKAZZシリーズなど、親子や家族の愛の苦悩、執着、喜びを描く全13篇。「イアラ短編シリーズ」「妄想の花園」シリーズを中心にセレクトした本書。楳図かずお氏の若き頃の初公開写真や「蝶の墓」の美しい扉絵を収録。

(Amazon解説文より)

 

 収録されている短編13作のうち、11作品は『単行本未収録作品集 妄想の花園 ホラーの妄想』に収められていたもの。『妄想の花園』も現在はやや入手しにくく、比較的レアなトラックがそろっていると言えそう。

 

 「愛の奇跡」-田舎の山奥で幸せに暮らす若夫婦。だが夫は山で遭難し、万年雪の中に閉じ込められ帰らぬ人に。残された妻は夫の帰りをいつまでも、いつまでも待ち続けるが…。文字通りの奇跡が起きるハートフルストーリーで、多少の強引さもめでたしめでたしで押し切る“良さ”がある。「女は待つ」-女は装う。女は待つ。女は誰かが来るのをひたすらに待ち続ける…。こちらも待ち続ける女の話で、明らかに前話「愛の奇跡」を意識した収録順だが、中身は正反対のブラックユーモアである。

 「蟲たちの家」-交際中の男女。男は「自分にはじつは妻がいるが、彼女はもう人間ではない」と打ち明ける。女が男の家に行ってみると、そこには無表情でクモの巣にまみれている“妻”がいた。男が言うには、妻は自分の不貞を恥じて虫になってしまいたいと願い、今では自分をクモだと思い込んでいるらしい…。男の正体が明らかになった途端、話が一転する恐ろしさ。ラストの展開は何が真実で何が妄想なのかさっぱりわからない。本書の中ではもっともホラーっぽいホラーで、ドラマ『世にも奇妙な物語』とオムニバス映画『楳図かずお恐怖劇場』で2回映像化されている。

 「霧の中へ」-海王星への移住計画に参加することになったジョー青年。自分の伴侶として共に海王星へ向かうことになる、アダムスン博士の姿を見たジョーは思わず悲鳴をあげてしまう……! 楳図作品らしい“異形”と“変身”のSF。「DEATH MAKE」-ホラー映画を撮るために、夜の学校でSFXの怪物マスクを造るビデオ部の生徒たち。だが意志を持ったホラーマスクが怪物となり、生徒たちをひとりまたひとりと血祭りにあげていく……! 「ギャーッ!!」「ハハハハ!!」「ギャーッ!!」「ハハハハ!!」「ハハハハ!!」「キャーッ!!」「ハハハハ!!」「ハハハハ!!」しかセリフがない中盤の追いかけっこなど、あえてB級ホラー映画に寄せたかのような内容。ラスト1ページの生理的嫌悪感が印象的。「プレゼント」-聖なる夜。クリスマス・コンパで浮かれてラブホテルになだれ込む若者たちの前に、星かざりの付いたチェーンを振り回す殺人サンタが登場! 「クリスマスをけがし続けたお前らへのサンタの復讐だーっ!!」 もげる手足! 剥がれる皮! 超バイオレンスなやり過ぎ道徳譚。

 「もしも 第1話 万華鏡」-アンティークショップの店先で見つけた万華鏡を覗いてみた真知子は、甲斐性なしの夫や子供たち、夫の両親の世話などに追われる未来の自分の姿を見てしまう。生活に疲れ果てた未来の真知子は、幸せな生活をつづる妄想の日記を書き続けていた…。非常にトリッキーなタイムスリップものとも言える内容だが、未来の真知子は何がきっかけで“知った”のだろうか。「もしも 第2話 妄想の花園」-養母のきびしいしつけから逃げ出した鉄生は、どことも知れない地下室の花園で美しい少女に出会う。少女との出会いで何かが変わった鉄生はその日から勉強を続け、立派な大人に成長した。社長として成功したあとも孤独さを感じていた鉄生は、幼いころに迷い込んだあの花園であの頃のままの少女と出会う…。作者によれば、このシリーズは同時期に放映されていたテレビドラマとタイトルが被ってしまったため続けられなくなった、とのこと。おそらく『世にも奇妙な物語』の後番組として始まった『if もしも』のことだろう。

 ここからは楳図かずお本人がストーリーテラーを務める5編。「黒い瞳」-喫茶店常連のおばさん・平塚がダイヤモンドの指輪を忘れていったため、店員の鈴は平塚の家へ指輪を届けに行く。平塚は財産のすべてを宝石に変えてしまったため、質素な暮らしをしているのだという。宝石コレクションを見せてもらったあと、帰途につく鈴だったが、すさまじい形相の平塚が彼女の後を追いかけてきた…!! 単純なサスペンススリラーと思わせておいて、なかなか巧みなギミックが仕掛けられた一編。「わたしは誰?」-貧血で顔色が悪く、ニンニクが嫌いな美子はクラスメイトから吸血鬼というあだ名でからかわれていた。「自分は吸血鬼じゃない」と訴える美子だったが、「お前が忘れているだけだ!」となおもクラスメイトたちは彼女を追いこんでいく…。ラスト2ページのどんでん返し(か?)に呆然。「背後霊」-厳しい芸能界を生き抜いていくタレント候補たちが、お互いの背後霊でバトルを繰り広げていたというデジモンみたいな話。「800回目のお彼岸」-電車で家に帰る少年の隣に、死んだはずのおじいちゃんが座っていた。「今度のお彼岸は800回目だから、死んだ人はすべて帰る」と告げて姿を消すおじいちゃん。そして迎えたお彼岸の日、死者たちが墓場から蘇ってきて…。ゾンビものの亜種とも言える話。「鎌」-お盆におばあさんの家へ帰省することになった理美とお父さん。だが家に到着すると、急死したおばあさんの通夜が行われていた。ひとりで留守番することになった理美は、おばあさんの棺の上に置いてある鎌を絶対に動かすなと言われるのだが…。話の内容もそこそこ怖いのだが、不自然なほど見開きの大ゴマが挟まれるので異様な迫力がある。ページ稼ぎかもしれないが。

 

 少数精鋭の前巻とはまた異なり、映像映えする佳作からインパクト重視の珍品まで、雑多なバラエティさが楽しい1冊。個人的には「プレゼント」「鎌」「霧の中へ」のB級感が印象深い。

★★★(3.0)

 

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