『妖琦庵夜話 魔女の鳥籠』
榎田ユウリ/2015年/352ページ
都内に佇む茶室、妖琦庵。美貌の主・洗足伊織はヒトとは僅かに違うDNAを持つ妖人であり、ある特別な能力を持っている。一方、警視庁妖人対策本部(Y対)の刑事・脇坂は、不可思議な事件を耳にした。聞き慣れない妖人属性を自称するふたりの女性が、同日、同じマンションで自殺を図ったというのだ。その裏に潜んでいたのは、母と娘の複雑な愛情と憎しみであり…。本当に怖いのは、人か、妖か。人気作第4弾、文庫書き下ろし。
(「BOOK」データベースより)
同じマンションに住む2人の女性が同日に自殺を図った。ひとりは湯船の中で手首を切って死亡、もうひとりは7階から転落し、命はとりとめたものの昏睡状態に陥った。彼女らが妖人で、それぞれ《オバリヨン》《どうもこうも》という聞きなれない妖怪の属性を申請していたことにY対の鱗田刑事、脇坂刑事は違和感を覚える。そもそも、彼女らは本当に自殺なのだろうか? 家族にはそれぞれアリバイがあり、マンションの監視カメラにも怪しい人物は映っていない。妖琦庵の主、伊織は《犬神》甲藤の得た情報をもとにひとつの推理を立てる…。
今回は母親という「魔女」、家庭という「鳥籠」にスポットを当てた、母親と娘の愛憎ひしめく関係性が生み出した事件。全編にいわゆる「毒親ムーブ」が事細かに描写されているため沈鬱な気分になりそうなほど。あわせて伊織と母親、そして青目という「家族」の過去も少しずつ明かされていくのもシリーズ作品ならでは。珍しくテレビに出演する伊織、珍しく風邪をひく伊織、茶室で推理を披露する伊織など見どころも多いが、ミステリとしても正統派でしっかり推理が楽しめる事件になっている。
★★★☆(3.5)

