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件(くだん)を自称する占い師の殺害。瞳が映す“空蝉”の真実とは-『妖琦庵夜話 空蝉の少年』

『妖琦庵夜話 空蝉の少年』

榎田ユウリ/2013年/320ページ

妖怪のDNAを持つ存在、「妖人」。茶室「妖琦庵」の主・洗足伊織は、すば抜けた美貌と洞察力を持つ妖人だ。人間と妖人とを見分けるその力で、警視庁妖人対策本部、略してY対の捜査に協力している。今回の仕事は、予言ができる妖人「件」を名乗る占い師の真贋を見分けること。その矢先、本物の「件」である、美しい女性占い師が殺されて!?伊織の「家族」で妖人の美少年、マメとの絆も描かれる、大人気妖怪探偵小説、待望の第2弾!!

(「BOOK」データベースより)

 

 《くだん》を名乗る占い師たちに関する相談が相次いだため、Y対の脇坂は伊織の協力のもと潜入調査を行う。《件》は非常にレアな存在なため、彼らは嘘をついている可能性が高い。案の定、本物の《件》は円山阿夜と名乗る占い師のみで、ほとんどは悪質なニセモノだった。
 だがその後、円山阿夜こと丸山綾子が首を絞められ殺害、内縁の夫である稲森も背中を包丁で刺された死体となって発見された。人気占いブロガー「咲耶姫」は、自分が円山阿夜の娘であり、母を殺した者に制裁を与えたとブログで発表。ネットの有名人のまさかの殺人宣言にファンも世間も、そして警察も多いに困惑した。稲森は阿夜の殺害後、咲耶も絞殺しようとしたらしいが、わずか13歳の咲耶が首を絞められている状況から稲森の背中を刺せるわけがない。
 《件》とその娘にまつわる殺人事件。大喰いに悩む円山阿夜の元クライアント。マメくんが拾ってきた野良猫と、猫をきっかけに仲良くなった少年。名と身分を変え、新たに暗躍を開始する青目甲斐児。すべてが一本の線でつながったとき、ある人物の恐るべき妄執が明らかとなる。

 

 妖人《小豆とぎ》ゆえ同年代のともだちがいないマメくん、マメが連れてきたどこか陰のある少年・テル、《件》の娘を自称する我儘で世間知らずのゴスロリ美少女ブロガー・咲耶といった少年少女たちが話の中心となる巻。ほのぼのした日常からY対の特殊な業務、不穏で奇怪な独白など、情報量の濃いエピソードが満載。それらが同時進行しつつ、ラストで明かされる真実に向けて収束していく手際にワクワクさせられる。一線を越えた“悪意”の登場もいい引きだ。ヴィラン側がレギュラーになるとワンパターンに陥りがちでは? という懸念もなくもないが、そこも含めて今後の展開がどうなるか楽しみである。老若男女すべての読者におすすめできるエンタメミステリ。

★★★★(4.0)

 

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