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犠牲者を捕らえ引きずり込む触手の群れ! 『ジョーズ』原作者の海洋パニックホラー-『ビースト』

『ビースト』

ピーター・ベンチリー/1995年/425ページ

それは、長いあいだ、誰にも知られることなく生存していた。深く暗い海の中で、獲物を求めてただ漂っていた。それは、眠りというものを知らなかった。そして、自分がどれほどの力を持っているのか知らなかった。唯一の天敵をのぞいて、全ての生き物は獲物だった。それは、ひどい空腹を感じていた。自然環境の変化で、獲物が激減していたのだ。それは、深海からゆっくりと浮上した…。戦慄の長編、待望の文庫化。

(「BOOK」データベースより)

 

 ニューヨークから南東1080kmに位置するバミューダ諸島。元漁師のウィリアム・サマズ・ダーリンは、相棒のマイクと働きつつ妻と娘を養っていたが、地元の権力者セント・ジョンに睨まれていたため生活は困窮しつつあった。そんなある日、友人の空軍中尉・シャープからの連絡で、ダーリンは海上に浮かんでいたゴムボートを見つける。ボートには誰も乗っておらず、アンモニア臭のする粘液と尖った爪のようなものが残されているだけだった。さらには地元の漁師と双子のダイバーが、船ごと何かに襲われて死亡するという事故が起きる。地元の新聞は事故の原因を「海の怪物のしわざ」と報じた…。

 功名心に駆られた動物学者のタリー博士は、メディア界の有力者・マニングをスポンサーに付けてバミューダを訪れる。マニングは双子のダイバーの父親であり、海の怪物こと“ビースト”への復讐心に燃えていた。タリーとマニングはダーリンと接触し、ビースト退治のために船を出してほしいと頼むが、相手の危険さ・強大さを感じ取っていたダーリンは首を縦に振らない。そうこうしているうちにセント・ジョンは雑誌社のカメラマンらと共に潜水艦へ乗り込み、ビースト狩りのため深海へと降りていったが、大方の予想通りの結果になってしまう。

 いまやビーストの恐怖はバミューダ全域を脅かしていた。共に大切な人を亡くしたダーリンとシャープは、タリー、マニングとともに船に乗り込み、決戦へと向かう…。

 

 『ジョーズ』の原作者、ピーター・ベンチリーによる海洋パニック。口絵や映画版のタイトルを見れば正体はわかってしまうと思うが、ビーストの正体は巨大イカである。作中に「『ジョーズ』なんてフィクションだ」みたいなセリフがあったりするが、本作自体が『ジョーズ』の呪縛から解き放たれていないというか、二番煎じなイメージはどうしても拭えない。『ジョーズ』との差別化を図った結果、王道から外れたしょーもない逆張りみたいになってしまった展開も見受けられる。ビーストとの対決にまったく乗り気でない主人公、ビースト騒ぎになるとわりとおとなしくなる周辺住民(ボートレースくらい強行すればいいのに。そして喰われればいいのに)、意味ありげに登場して最後まで出番のない爆弾などがそうだが、ビーストとの決着の付け方も正直「なんだかなあ」という感想。とは言えビーストの視点やその外見のおぞましさはじゅうぶん味わえるし、見せ場自体は多くスイスイ読み進められる。

★★★(3.0)

 

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